研究実績の概要 |
本研究では、バレートロニクスに向けて打破が必要な技術的な困難を克服する方策として、異なる単層MX2(M=Mo, W, X=S, Se)をファンデルワールス力で積層したヘテロ構造(MoSe2/WSe2, WS2/WSe2)での特異なバレースピン分極状態を利用する事を着想し研究を進めた。これまでの研究から、バレースピン励起子(電子-ホール対)の電子-ホール(クーロン)交換相互作用が、分極緩和を引き起こす事がわかっており、その知見を利活用する。特に、電子とホールが空間的に分離し弱束縛した、ヘテロ構造(MoSe2/WSe2)での層間バレースピン励起子(荷電励起子)がこのような目的には最適ではないかと考えた。具体的な実験項目と成果は以下の通りである。 1)高品質ヘテロ構造(MoSe2/WSe2など)作製のために、乾式転写法とフォトリソグラフィ技術とを高度化し、狙った位置にグラフェン電極を施した電界効果トランジスタデバイスを作製が可能とした。これにより、ゲート電圧によるキャリア濃度変調における、より精度の高い光学実験が可能となった。 2)円偏光励起によるバレースピン分極の選択生成と光検出を行う実験セットアップを用いて、絶縁層を挟んだヘテロ構造(MoSe2/h-BN/WSe2など)において、2次元自由層間励起子が関与したバレースピン分極に起因する円偏光発光を観測することに成功した。さらに、時間分解測定から、そのバレースピン分極のダイナミクスの実験を行い、極めて長いバレースピン緩和時間を得ることに成功した。
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