研究課題
我々はシリコン(Si)ミー共振器をアレイ化した誘電体メタサーフェスにおいて、熱光学効果を利用した動的な光制御をめざして研究を行っている。昨年度は電気双極子(Electric Dipole :ED)と磁気双極子(Magnetic Dipole :MD)が縮退したホイヘンスメタサーフェス(Huygens' Metasurface: HMS)の縮退臨界結合(Degenerate Critical Coupling: DCC)の原理に基づいて完全吸体(Perfect Absorber: PA)を実現し、加熱の効率化を達成することで、これまでより1/10の低パワーでの光スイッチングの実証に成功している。しかし、光信号の波長と制御光の波長が同じであることから、加熱にともない吸収スペクトルの波長がシフトするにつれて、変調効率が低下する問題があった。今年度は、上の問題を解決するために、HMSにおいて信号光と制御光(加熱用)の波長が分離された構造を設計した。その結果、以下の結論を得た。1)ED/MDよりも共振器への閉じ込め効果が強くQ値の高い四重極子(Quadrupole)に注目し、電気四重極子(Electric Quadrupole: EQ)と磁気四重極子(Magnetic Quadrupole: MQ)が縮退したEQ/MQ型のHMSを設計した。これにより制御光のみを短波長化し、ED/MDの担う信号光と波長分離できる。2)波長分離に関連して、光吸収のおきる空間的位置が波長ごとに異なるフォトンソーターの機能を縦型化し、PAのメタ原子構造を小型化した。3)楕円型ミー共振器アレイによるEQ/MQ型HMSを実際に作製し、吸収共振波長(450nm)が理論と一致することを確認した。次に、基板をヒーター加熱することにより吸収スペクトルにおけるED/MD信号光の強度変調を観測することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
予定していたメタサーフェス素子を実際に作製し、可視光域の透過・吸収スペクトルが理論と一致することを確認することができた。また、将来的に信号光を光通信波長の1550nmとするため、近赤外波長域用の高感度分光器を備品として購入し、近赤外顕微分光システムを構築した。以上のことから、おおむね順調に進展しているといえる。
現在、デバイスの光による加熱を行う制御光と信号光の波長はどちらも592nmである。2024年度は光加熱をPAの共振波長である450nmへ短波長化し、制御光(加熱用)・信号光の波長をそれぞれ450nm、592nmと分離する。本素子を共同研究者の台湾国立台湾大学のShi-Wei CHU教授の研究室に送り、光・光スイッチングの測定実験を行う計画である。また、今後は信号光の波長を長波長化し、光通信波長(1550nm)にすることを目指す。
わずかな残額が発生したものの、無理に年度内に使用する必要がなかったために、次年度使用額とした。これは研究に必要な光学部品の購入に充当する。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Nanophotonics
巻: 12 ページ: 2461-2469
10.1515/nanoph-2023-0014
光学
巻: 52 ページ: 274-279