研究課題
本研究は、天然にある粘土鉱物とTiO2の光触媒複合体において、自然界に普遍的に存在するFe(III)の局在性によって、太陽光のもとで光触媒活性がどのように影響を受けるかを明らかにしようとした。初年度目には、有機汚染物質のモデルとしてフェノールを選び、酸化分解反応をモニタリングした。また還元反応のモデルとしてCr(VI)の還元無害化をモニタリングした。ともに紫外可視光を含むXeランプ照射下で光触媒反応が観測された。複合体中のFe(III)が粘土鉱物側に局在している場合のほうが光触媒活性は高くなった。粘土鉱物は本来不導体であるが、Fe(III)の置換型イオン交換によって電子トラップ準位ができ、光電子励起が起きやすくなり、TiO2との接合があれば、励起電子はTiO2側の電子軌道を使うようになり、粘土鉱物内での再結合が起きにくくなった。二年度目には、カーボンニュートラルを念頭に置いて、グルコースの分解による乳酸の生成反応をモデルとして、その転換率により評価した。やはりFe(III)が粘土鉱物側に局在している方が、グルコースの分解率、乳酸の収率、乳酸への転換率いずれも高くなった。もちろんこれらは、TiO2単独、Fe(III)をドープしない粘土鉱物を使ったTiO2との複合体いずれよりも高く、Fe(III)担持粘土鉱物とTiO2が複合化していることと複合体中のFe(III)の粘土鉱物への局在性が酸化還元いずれの光触媒活性に対しても重要な要素になっていることがわかった。Fe(III)は環境において普遍的な化学種で粘土鉱物は通常これを担持している。地球表層環境において天然鉱物が光触媒の機能を担って他の金属酸化物と複合化することにより、太陽光の照射の下でさまざまな物質変換を加速する反応が生じていること、そのことにFe(III)イオンや粘土鉱物は重要な役割を果たしていることが示唆された。
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