研究課題/領域番号 |
22K19002
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原渕 祐 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (60727204)
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研究分担者 |
増田 侑亮 北海道大学, 理学研究院, 助教 (20822307)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 量子化学計算 / 分子設計 / 無輻射失活経路 / 分子蛍光 |
研究実績の概要 |
本研究では、2023年度より、無輻射失活経路に基づいて設計した分子に対する実証実験が必要であると判断し、新たに有機合成化学と光電子移動触媒を用いたラジカル反応の専門家を研究分担者として加え、リン化合物を対象とした実証実験を進めた。これと同時に、実際に応用が期待される分子の光物性や光反応性へと研究の対象を広げ、無輻射失活経路予測に基づく分子設計および反応設計へと研究を展開することとした。2023年度は、密度汎関数理論(DFT)および時間依存密度汎関数理論(TDDFT)を用い、第一励起状態から基底状態への無輻射失活過程において重要となる円錐交差探索に加えて、異なる電子状態間の交差に対応する交差シームを探索し、実験的に得られた現象の機構を明らかにするとともに、新たな分子に対する理論的予測を進めた。 円錐交差探索計算の応用としては、北海道大学の実験グループが開発した、光励起により2つの化学結合が同時に回転する光分子スイッチの反応機構の詳細解析を進めた。TDDFTに基づく円錐交差探索に加え、CASSCFおよび、CASPT2を用いた詳細な解析を適用し、光照射下で2つの結合が回転する機構解明に寄与した。 また、リン原子を含む化合物における新規光電子移動触媒反応に対して、無輻射失活経路探索に基づく詳細な機構解析に加えて、基質分子に関する理論予測と、それに基づく実証実験にも着手した。理論計算手法の拡張についても、ある分子骨格に対する分子の置換構造を系統的に作成する方法、および、異なる分子骨格を生成する方法、そして、結果の解析手法において進展があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、無輻射失活経路予測に基づく蛍光分子骨格の理論設計を目的として研究を進めている。2023年度には、無輻射失活経路の探索に基づく光反応の詳細な機構解析を進めたことに加え、理論的に予測した反応に対する実験的実証についても着手しており、無輻射失活経路予測に立脚した新たな分子設計手法の実用に向けて前進した。そのため、十分な進捗があると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、研究分担者との連携し、リン化合物を対象とした無輻射失活経路の解析と実証実験を進め、反応機構の全貌の理解に加えて、無輻射失活経路予測に基づく反応開発へと研究を展開する。2023年度までの研究を通じて、実際に、理論計算によって予測された無輻射失活経路に対する検証実験を通じて、光電子移動触媒反応における新たな電子移動過程が明らかになりつつある。今後は得られた知見に基づいて、従来法では合成困難であった新規機能性分子群の合成法を設計し、それらの合成に向けて理論的および実験的検討を進めていく。具体的には、すでに特異な発光特性を示すことが知られているリン原子挿入型多環芳香族化合物に重点を起き、計算によって明らかになった新規電子移動過程を活用した合成法を開発する。また、置換基修飾による分子構造の系統的な作成を用いて、合成前段階における対象分子の機能評価(蛍光量子収率、蛍光寿命、円偏光発光特性など)を行う。一般に、量子化学計算に基づく分子設計の研究では、理論予測の正当性を評価するのは容易ではないが、実験を通じて分子を評価することで、本研究課題が目標とする分子骨格の理論設計技術の実証につながると期待される。 理論計算手法の拡張においても、上述の理論設計と実験的実証の研究を加速するために、これまでに開発を進めてきた分子構造を作成する方法や、それによって得られた分子構造や計算結果を解析する手法の拡張にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度より、計算によって得られた知見に基づいて、新しい反応のデザインおよびそれを利用した新規機能性分子群の創出へと研究を展開している。特にリン原子を含む化合物における新規光電子移動触媒反応に対して、無輻射失活経路探索に基づく詳細な機構解析と実証実験を行うことで、新たな知見が得られた。そのため、2023年度に新たに得られた知見に基づき、次年度に重点的に合成実験を行うように計画を修正した。これに伴って、次年度に研究用試薬を含む消耗品および成果報告のための旅費・学会参加費などが当初の計画以上に必要になると判断し、本年度の研究費の一部を次年度使用する計画とした。
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