研究実績の概要 |
電子状態計算法において、信頼性の高い定量的な計算値を得る事と同時に、その計算精度に応じた解析方法が提供されねばならない。本申請では、自然摂動軌道を利用して、直観性と定量性を両立した分子物性の解析方法、及び、化学反応解析法を構築し、その方法を種々の分子や反応系に応用する。自然摂動軌道は申請者が提案して名付けたものであり、その要点は外場に応答する波動関数の成分を抽出することにある。このため、外場(微小変化)を与える必要がある。純粋な「外場」である外部電場や磁場を使えば、分子分極率やNMR化学シフトなどの各種の解析に使える。更に、本提案では、(a)固有反応座標(IRC)の基準振動に沿った分子骨格の変化、(b)2つの反応物間の相互作用、なども外場として有効である。(b)の場合は、化学反応の特徴を少数の軌道のペアーで直感的かつ定量的に解釈することを目論んでいる。 初年度は、NMR化学シフトの解析への応用を考えた。NMR計算には、W化合物(WCl6(2-), WO4(2-), WF6(2-), W(CO)6(2-), WCp2H2)、Pt化合物(PtCl4(2-) , PtBr4(2-) , PtI4(2-) , Pt(OH2)4(2+) , Pt(SCN)4(2-))、Hg化合物(HgCl2, HgBr2, HgI2,HgMe2,Hg(CCl3)2 , Hg(SiMe3)2)の重原子核NMRを対象として、従来のNPOやMulliken Populationの解析、及び、励起エネルギーと対応付ける解析などの限界を確認した。 具体的には、HgやPt化合物では価電子d軌道がほぼ全て占有されている為、p軌道の電子populationの解析が有効であった。一方、W化合物ではd軌道は概ね半分程度占有しているためpopulationの解析は有効でなく、d-d遷移の解析が有効であった。
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