研究実績の概要 |
近年、不斉触媒反応において「C-H…O非古典的水素結合、C-H…π、πスタッキング」といった「分散力を主とする弱い相互作用」を介して有機分子触媒あるいは不斉配位子と反応基質が相互作用し、遷移状態の安定化が図られていることが明らかになってきた。立体反発に起因する「立体歪」による遷移状態の不安定化は良く議論されるが、「分子間相互作用による遷移状態の安定化」も選択性を決定づける極めて重要な因子となっている。デマンド・ドリブン(要求駆動)に基づく方法論は、これら「立体歪の最小化」と「分子間相互作用の最大化」という最適触媒に「要求される」条件を「駆動力」として探索することを特徴とする。 この方法論の実証系として代表者が豊富な経験を有するキラルリン酸触媒を用いた反応系を検討した。デマンド・ドリブンに基づく方法論は触媒の修飾と反応基質の修飾の二通りの方法があるが、今年度は反応基質の修飾を検討した。キラルリン酸触媒のなかでもスピロ環構造を有するSPINOL誘導体の6,6’-位に導入する置換基を固定し、反応基質に導入したフェニル基を化学修飾することを想定し、代表的な候補置換基をフェニル基上に導入した。電子効果についてはHammettのσ値などの既存のデータを活用し置換基の特徴を評価した。量子化学計算による遷移状態計算、続く「相互作用解析」を行い、得られた「分子間相互作用」エネルギーをそれぞれ、置換基パラメータ「電子効果(Hammettのσ値)」は「分子間相互作用」と相関する評価データとした。これらの一次評価データをもとにフェニル基上に導入する最適置換基を推定し、実際に実験系でエナンチオ選択性が向上することを確認した。
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