研究実績の概要 |
本研究では、重原子を導入し、炭素化合物では実現不可能な、結合の制約を受けない非結合性相互作用を利用した柔軟な構造変化を伴う電子の非局在化の機構を達成し、これを新たな電気伝導パスを有する機能性物質へと展開するための基礎学理とすることを目的とする。 今回、σ非局在電子系を有するユニットを拡張する試みとして、これまで用いていたジセレニド結合をその拡張のための架橋部位とする方法とは異なり、ビフェニルをプラットホームとしての拡張を試みたところ、ビフェニルユニットに最大で八つのヨウ素原子を導入することに成功した。そのヨウ素原子の孤立電子対がビフェニルの周縁部にσ非局在軌道を形成していることも明らかにした。また、σ非局在軌道とπ共役系の相互作用の構築を目的に、ペンタヨードおよび1,2,4,5-テトラヨードフェニル骨格に1,2,3-ベンゾトリアゾリル基を導入し、(σ+π)-混合非局在系の創製にも成功した。 六つのセレン原子官能基を有するベンゼンの単分子電気伝導度を測定したところ、セレン上の置換基がフェニル基の場合にはセレン原子が金基板に接着せず、フェニル基が接着することがわかった。一方、セレン上の置換基がメチル基のものを新たに合成してその単分子電気伝導度を測定したところ、セレン原子での接着が確認され、さらにセレン原子が少ない、即ちσ非局在電子系をもたない参照化合物の単分子電気伝導度と比較してはるかに高い電気伝導度が観測された。これは非結合原子間の相互作用が電気伝導パスに関与したことを示す意義深い結果である。
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