研究課題/領域番号 |
22K19025
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
忍久保 洋 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50281100)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 反芳香族性 / 電荷移動錯体 / 電子供与体 / 電子受容体 |
研究実績の概要 |
反芳香族分子は、高いHOMOと低いLUMOを両立できるという他の有機分子にはない特異な電子構造を有する。このため反芳香族分子は、芳香族分子よりも電子・正孔の授受に関して本質的に優れている。これらのことから、反芳香族分子は優れた電子供与体(ドナー)としても電子受容体(アクセプター)としても機能する可能性を秘めている。本研究では、安定な反芳香族分子ノルコロールニッケル錯体を用いて、電荷移動錯体を合成し、その物性や機能を明らかにすることを目的として進めた。 前年度にフェニルノルコロールニッケル錯体の電子供与体としての利用を検討したことから、本年度はより電子供与性を向上された新規ノルコロールニッケル錯体の合成を検討した。ノルコロールの置換基として4-メトキシフェニル基、3,4-ジメトキシフェニル基、3,4,5-トリメトキシフェニル基をもつノルコロールニッケル錯体を合成したところ、期待したとおり電子供与性が向上することが電気化学測定の結果から明らかになった。また、これらのノルコロールニッケル錯体は明確な反芳香族性を示した。合成したこれらのノルコロールニッケル錯体と各種アクセプター分子を混合し、電荷移動錯体の形成を試みた。吸収スペクトルの変化から電荷移動錯体の形成が示唆された。現在、共結晶化を試みている。 また、極性溶媒中でノルコロールニッケル錯体と電子アクセプターを混合すると、それらが結合形成を起こし、ドナーとアクセプターが連結した化合物が得られることも見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルコキシ基をもつ芳香族置換基を周辺に導入することで、従来のノルコロールニッケル錯体に比べてより電子供与性を向上させた新規なノルコロールニッケル錯体を複数合成することに成功した。さらに、これらの化合物と様々な電子アクセプターを組み合わせることで電荷移動錯体の形成を示唆する結果が得られている。 また、ノルコロールニッケル錯体と電子アクセプターを混合する際に用いる溶媒の重要性を示す結果が得られている。極性溶媒をもちいるとノルコロールニッケル錯体と電子アクセプターが結合形成を起こし、ドナーとアクセプターが連結した化合物が得られることも見いだしている。今後、この反応の最適化とともに化合物の構造や物性の解明を進める。
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今後の研究の推進方策 |
アルコキシ基をもつ芳香族置換基により電子供与性を向上させたノルコロールニッケル錯体と各種アクセプター分子を混合することにより共結晶を作成し、その構造解析を行う。これにより、電荷の移動に適した結晶パッキング構造をもつ電荷移動錯体を与えるノルコロールニッケル錯体とアクセプター分子の組み合わせを特定する。さらに、得られた電荷移動錯体について電荷移動特性などの物性測定を行い、ノルコロールニッケル錯体の電子ドナーとしての特性を評価する。 また、前年度に見いだしたノルコロールニッケル錯体と電子アクセプターの結合形成反応について詳しく調査を進める。溶媒を含めた反応条件を最適化し、効率的にドナー-アクセプター連結分子を合成する。さらに、得られた分子の構造を明らかにするとともに、分子内電荷移動相互作用について吸収スペクトル等から評価する。電荷移動特性など化合物の物性についても明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
目的化合物の合成がスムーズに進んだため、合成ルートの検討に必要と見込んだ消耗品の費用を抑える事ができたほか、参加予定であった国際学会への参加を取りやめたため、見込んでいた旅費が不要となった。 次年度使用額については物性探索のため目的化合物の合成に使用し、本研究を完結させる。
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