研究実績の概要 |
電気的に中性な炭素種の中で最も電子数の少ない「原子状炭素」の等価体として機能する分子を開発するために、本研究ではNHCという取り扱い容易な有機化合物が、炭素原子等価体として利用可能であることを実証する。原子状炭素は原理的に4つの置換基を新たに導入することが可能なため、短工程での複雑分子構築のための理想的な手法となる。本研究では、原子状炭素等価体として機能するNHCおよびその類縁体を開発し、4つの共有結合を一段階で形成する新しい有機合成反応(「炭素埋め込み反応」)の開発を目指した。 予備検討の結果、α,β-不飽和アミドとN-ヘテロ環状カルベン(NHC)とを反応させたところγ-ラクタムが生成することを発見した。本予備結果を基盤として下記の結果を得た。 (1)基質の適用範囲の調査:様々な不飽和アミドを検討したところ、ハロゲン基などのいくつかの官能基が許容されることがわかった。さらに、医薬品由来の複雑なアニリン由来の不飽和アミドからも効率よく炭素原子埋め込み反応が進行することを明らかにした。 (2)反応機構:NHCの2位を13Cで標識した化合物を用いて、導入炭素の位置を確定するとともに、NHCの2位炭素原子が炭素源になっていることを実証した。 (3)合成化学的応用:生成物であるガンマラクタムの構造修飾をおこなった。例えば、各種還元条件を使い分けることによりピロリジンやピロールへと環骨格を変換することができる。また塩基存在下でマイケル受容体と反応させることで窒素のα位をアルキル化することもできた。
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