研究課題/領域番号 |
22K19039
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小林 厚志 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50437753)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 光触媒 / 水分解 / インク / 光電極 / 色素増感 / 疎水性相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では伝導性光触媒インクの創出により、簡易成膜により軽く柔軟な水分解光電極の構築を目指して研究を展開中である。 研究初年度は「光触媒インクの創出」を第一目標として、色素増感水素生成ナノ粒子光触媒表面に疎水性アルキル基を修飾し、リン脂質からなる球殻状脂質二分子膜(ベシクル)と組み合わせることで、均一に水に分散する光触媒ナノ粒子インクの創出を検討してきた。 疎水性ノニル基を修飾したルテニウム色素増感光触媒ナノ粒子RuC9@Pt-TiO2は表面疎水性が高く、水に対してほとんど分散せず、光触媒活性もノニル基を持たない類似系Ru@Pt-TiO2の半分以下と見積もられた。一方、リン脂質(DPPC)からなるベシクル膜へ分散させると、水に対して高分散化し、その集合体のサイズは40nm程度と小さいことが明らかとなった。さらに興味深いことにアスコルビン酸共存下における光水素生成反応活性は、ベシクル膜へ分散させることで3倍以上にも増強され、表面ノニル基がないRu@Pt-TiO2の活性を上回ることがわかった。このベシクル膜共存下における水素生成光触媒活性の向上は、疎水性ノニル基を持たない類似系では全く観測されなかったことから、表面疎水性がベシクル膜との相互作用に必要不可欠であると考えられる。 以上の結果は、リン脂質ベシクルが表面疎水性光触媒ナノ粒子の水に対する分散性を著しく向上させ、光触媒活性を大幅に増強していることを実証するものであり、本手法が光触媒ナノ粒子を高い活性を保ちつつ溶媒に対する分散性を向上させ、印刷に適するインク化に有望であることを示すものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光触媒ナノ粒子表面の疎水化は親水性反応基質の接近を妨げる要因となり得るため、本研究の立案段階では、アルキル基修飾による疎水性の獲得は光触媒活性低下の要因になりうると想定された。 しかし、これまでの研究実績により、その懸念は打開できることが明らかとなった。これは想定以上の結果であり、修飾するアルキル基の鎖長や修飾密度により表面疎水性を任意に制御できれば、高分散かつ高活性な光触媒ナノ粒子の創出につながる可能性も期待できる。 以上の観点から、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究展開としては、より高活性な光触媒インクの創出を目指し、担持する色素を多層化して電荷分離効率を向上させつつ、ナノ粒子表面に担持する疎水性アルキル基の鎖長や担持密度を制御し、その分散性と光触媒活性の相関関係を明らかとする。 同時に分散補助剤として単純なリン脂質のみならず、導電性高分子コロイドや酸化還元活性脂質等を積極的に活用し、水分散系で高活性な光触媒系を構築しつつ、これらをインクとして活用し、スピンコートやドロップキャスト等の簡易成膜法により高活性な光水素生成電極の創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延により各種学会がオンライン開催されたため、計上していた旅費が一部余剰になった。合成および測定消耗品等への支出振替により、次年度までには計画的に執行できる予定である。
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