研究課題/領域番号 |
22K19048
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
正岡 重行 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (20404048)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 人工光合成2.0 / エネルギー獲得 / 高付加価値分子合成 |
研究実績の概要 |
近年、エネルギー問題の解決を志向した「人工光合成」と呼ばれる取り組みが盛んにおこなわれている。この人工光合成反応では、二酸化炭素と水を利用し、太陽光のエネルギーを化学エネルギーへと変換・貯蔵できる。一方で、得られる生成物は水素・ギ酸・一酸化炭素等の小分子にとどまっており、天然の光合成が行っているような高付加価値分子の合成は未達成である。そこで本研究では、二酸化炭素と水を原料とするエネルギー貯蔵型の高付加価値分子合成を志向した触媒開発基礎研究を展開することとした。特に、太陽光エネルギーまたは太陽光エネルギーから作られる電気化学エネルギーを駆動力とし、小分子を基質として用いたエネルギー貯蔵型の物質変換反応の開発を試みた。 2023年度は、穏和条件におけるメチルラジカルの新規生成手法の開発と、それをHAT剤として活用したベンジル位C(sp3)-H結合の官能基化に関する研究を行った。メチルラジカルの生成手法として、コルベ電解反応に注目した。この反応では、カルボン酸の電気化学的1電子酸化と続く脱炭酸によってアルキルラジカルが生成する。この反応の活用により、安価で入手容易な酢酸を新規メチルラジカル源とした反応が実現できると考えた。実際に、ジフェニルメタンを基質、メタノールを求核剤として、反応条件を検討した結果、酸化還元不活性な電解質を用いた際に反応の進行を確認した。更に、各種条件検討の結果、最高収率56%で目的化合物が得られることが分かった。また、反応メカニズム解析も行い、酢酸由来のメチルラジカルが反応の進行に不可欠であることを見出した。以上より、酢酸を用いた新規メチルラジカル生成法の開発と、それをHAT剤として利用したベンジル位C(sp3)-H結合の官能基化を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、安価で豊富な原料から光または電気化学的刺激を用いて有用化合物を合成するための手法の開発を行ってきた。これまでに、(i)金属錯体をメディエーターとして電気化学刺激を与えることで小分子を活性化できること、ならびに、(ii)その活性化状態が金属錯体の電子状態ならびに電気化学刺激の状態に応じて様々に変化することが見出された。更に、(iii) 未踏の活性種を安価な小分子から発生させそれを用いた反応の展開についても一定の知見を得ている。一方で、これらの概念を融合し、金属錯体による小分子の活性化と生じた活性種を用いた有用化合物の合成については達成できていない。以上の理由から、進捗状況を「(3)やや遅れている。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
先述のとおり本研究では、二酸化炭素と水を原料とし、太陽光エネルギーまたは太陽光エネルギーから作られる電気化学エネルギーを駆動力とした、エネルギー貯蔵型の高付加価値分子合成を志向した研究を展開する。これまでに、(i)金属錯体をメディエーターとして電気化学刺激を与えることで小分子を活性化できること、(ii)その活性化状態が金属錯体の電子状態ならびに電気化学刺激の状態に応じて様々に変化すること、ならびに、(iii) 未踏の活性種を安価な小分子から発生させそれを用いた反応の展開について、一定の知見を得ている。今後は、上記の概念を融合し、金属錯体による小分子の活性化と生じた活性種を用いた有用化合物の合成に取り組む所存である。具体的には、二酸化炭素の活性化により得られる活性種を用いて、カルボン酸生成などの炭素-炭素結合生成を伴う骨格形成反応に活用する。上記の研究を通じ、エネルギー貯蔵型高付加価値分子の合成に関する学理の構築に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、当初は想定していなかった「穏和条件におけるメチルラジカルの新規生成手法」を見出したため、その課題の解決に向けた研究をプロジェクトの一環として推進した。その結果、本課題の最終的な目標である「金属錯体による小分子の活性化と生じた活性種を用いた有用化合物の合成」に関するテーマについて使用予定であった物品・消耗品費に未使用が生じた。また、本テーマに関する成果を発表する予定であった学会への参加費・旅費にも余剰が生じた。そこで、2024年度は、未使用の予算を本テーマに関する物品費や旅費として適切に使用し、本課題の最終目標の達成に専心する所存である。
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