渡り鳥であるヨーロッパコマドリは量子コヒーレンス状態を利用して地磁気をセンシングすることで方角を知ることが出来ると考えられている。この室温かつ夾雑な生態環境において機能する自然界の量子センサーに着想を得て、本研究では多様な外部環境を室温付近でセンシング可能な分子性材料の構築を目指し、実際に量子ビットを密に集積した多孔性金属錯体の構築に成功した。 アセン系量子ビットを密に集積することで、1分子の励起三重項状態から2つの励起三重項状態が生成される一重項分裂を起こすことができ、その途中過程で生成される五重項状態を四つの電子スピンからなる量子ビットとして用いることが出来る。一重項分裂を起こす代表的な色素であるペンタセンの誘導体を、多孔性金属錯体と呼ばれる剛直な構造を持つナノ多孔性材料中に配位子として高密度に導入した。これにより色素の運動を最小限に留め、パルス電子スピン共鳴(ESR)測定により室温で初めて五重項状態の量子コヒーレンスを観測することに成功した。また、スピンの運動について分子配向変化も考慮した量子シミュレーションにより測定結果を再現したところ、色素部位の運動性が抑制され、色素同士の配向の変化が小さいMOFの骨格格子振動が五重項状態の生成と量子コヒーレンスの保持に寄与していることを見出した。 更にジアザテトラセンを有する配位子を用いて多孔性金属錯体を構築することで、光誘起電子移動によりラジカルを構造中に発生させ、このラジカルが極めて長いスピン格子緩和時間とスピン―スピン緩和時間を示すことを見出した。更にはゲスト分子を導入することによりスピン―スピン緩和時間に変化が見られ、量子センシングに応用できる可能性が示された、
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