本研究では、両親媒性グラフトポリマーを基盤としたナノディスク作製法の構築、無細胞タンパク質合成を用いたナノディスクへの膜タンパク質の直接組み込み法を確立する。これにより、既存の膜タンパク質可溶化法の問題点を解決した新しい膜タンパク質構造解析ツールを創出することを目的とした。昨年度は、温度応答性グラフトポリマーを基盤としたナノディスクの創製を行った。具体的には、ノニオン性高分子を主鎖、側鎖としてpoly(propylene oxide)を有するグラフトポリマーを合成した後、無水コハク酸などで処理することで、アニオン性グラフトポリマーを得た。この際、無水コハク酸の添加量を調整することにより、修飾量・表面電荷の制御が可能であることが判明した。また、得られたポリマーの自己組織化挙動を調べたところ、修飾量に依存して、ディスクを含む種々の自己組織化体を得ることができることが判明している。本年度は、ナノディスク存在下で無細胞タンパク質合成を行い、ナノディスクへ膜タンパク質を直接組み込むことで、ナノディスクの可溶化能の評価を行った。これによりポリマーディスクの構造解析ツールとしての有用性を確立する。ここでは、血小板由来増殖因子レセプターの1回膜貫通ドメインを持った膜タンパク質を用いて、ナノディスクの膜タンパク質可溶化能を評価した。可溶化能を容易に評価できるように、赤色蛍光タンパク質を連結した膜貫通ドメインを使用したところ、ディスク存在下で赤色蛍光タンパク質由来の蛍光シグナルを発したことから、タンパク質が適切に折りたたまれていることが判明した。これは膜タンパク質がディスクに組み込まれることにより、タンパク質が正しくフォールディングしたと考えられ、ディスクが膜タンパク質の可溶化剤として機能したことを示唆している。
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