研究課題/領域番号 |
22K19076
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
関根 ちひろ 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (60261385)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 熱電変換材料 / スクッテルダイト / 超高圧 / 格子熱伝導率 / 自己充填反応 |
研究実績の概要 |
これまで、熱電変換材料の様々な設計指針が提案され、多くの研究が行われてきたが、熱電発電を普及させるのに必要な性能には至っていない。このような状況の中、熱電変換材料の性能を向上させる全く新しい手法を開発することは重要である。熱電変換材料の性能は、ゼーベック係数の二乗および、電気伝導率に比例し、電子熱伝導率、格子熱伝導率に反比例する。格子熱伝導率以外のパラメータは、全てキャリア濃度の関数であり、トレードオフの関係にある。そこで、キャリア濃度の最適化に加えて格子熱伝導率の低減が高性能材料開発の鍵となる。我々は、カゴ状物質であるスクッテルダイト化合物において、20 GPa 以上の超高圧力の印加により、カゴを形成する原子がカゴ内部に充填される新しい現象「圧力誘起自己充填反応」を発見し、この反応により生成される自己充填相において格子熱伝導率が著しく低下することを見出した。この自己充填相は、超高圧を利用した特殊な製造プロセスを経なければ得ることができない。本研究では、このような超高圧下における特異な反応に着目し、超高圧技術を駆使した熱電変換材料の性能を向上させる新たな開発手法を確立することを目的とした。 このような研究目的の下、本年度は、最も低い圧力で自己充填反応が起きるRhSb3の自己充填相をマルチアンビルプレスを用いて作製し、格子熱伝導率の低減機構の解明を目指し、核磁気共鳴実験を行なった。その結果、 局所的な構造変化が生じている可能性が示唆される結果を得た。今後、構造モデルを仮定して電場勾配の計算を行い、実験結果との比較を行う予定である。また、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧実験の準備を進め、新たな加熱機構を設計・製作し、問題なく加熱できるとを確認した。今後、放射光X線を用いた実験を行い、温度ー圧力相図の決定と、自己充填反応による構造変化を詳細に調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度、試料合成に使用しているマルチアンビルプレスが設置されている実験室の改修工事が実施され、3ヶ月間実験を行うことができなかったため、研究計画通りに試料を作製できなかった。そこで、2023年度に予定している放射光X線を利用した高温高圧実験の準備を先に行うこととした。具体的には、ダイヤモンドアンビルセルの加熱機構を検討し、新たなシステムを構築した。予備実験では問題なく試料を加熱することができることを確認し、放射光共同利用実験を開始する準備が整った。また、改修工事前に作製したRhSb3の試料を用いて、核磁気共鳴実験を2 Kから300 Kの温度範囲で行い、新たな知見を得ることができた。さらに、核磁気共鳴実験の結果を解釈するための結晶構造モデルを検討した。これまでに得ているRhSb3の自己充填相のX線回折実験結果を再現できるモデルを構築した。自己充填した際の実際のSbの位置については現在、不明であるがいくつかの候補をリートベルト解析によって検討した。
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今後の研究の推進方策 |
試料合成に関しては、研究代表者が中心となり、マルチアンビルプレスを用いて10 GPaまでの高圧合成を行い、10 GPa 以上の超高圧実験は、研究協力者と共に、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)により行う。DACの超高圧実験は、高度な技術力が必要となるため、研究協力者(本学技術職員の林純一氏)の協力は不可欠である。また、RhSb3, CoSb3, IrSb3について、詳細な温度ー圧力相図を調べ、副相を含まない純良な自己充填相の単一相を得るための最適温度、圧力条件を探索する。得られた純良な自己充填相の詳細な物性を、放射光X線を用いた詳細な構造解析、核磁気共鳴実験、ラマン散乱実験などにより調べ、この系の格子熱伝導率の低減機構を解明する。
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