研究課題/領域番号 |
22K19080
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
吉田 司 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (90273127)
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研究分担者 |
松村 吉将 大阪工業大学, 工学部, 講師 (30791818)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 再生可能エネルギー / レドックスバッテリー / 有機レドックス分子 / 導電性高分子触媒 / 電極動力学 |
研究実績の概要 |
ロッカブルレドックスシャトル(LRS)のコンセプトを確認するため、1,2-dihydro-1,2-diphenylacenaphthylene(R;還元型)を合成し、その電気化学挙動を評価した。これを酸化して、開環型の1,8-dibenzoylnaphthalene(O;酸化型)を単離することも出来た。アセトニトリル溶液中でOは-2 V (vs. FC/FC+付近で不可逆に還元される一方、Rは+1.1 V付近で不可逆に酸化された。すなわち、閉環型のRが酸化開環に対して3 eVも安定化されていることが分かった。Rの溶液を大気中4日間攪拌しても、O型が生成しないこともNMRから確認された。当初の目論見通り、還元に伴い分子内ピナコールカップリングによる閉環が起こる同種の分子が、大気中でのエネルギー貯蔵に大変有望であることを確認出来た。しかしながら、上記化合物は水溶性を全く持たないため、酸化還元に伴うプロトン付加、脱離が起こっているかは疑わしく、この系にブレンステッド酸を添加した時の定量的な酸化還元電位の変化を調べる必要がある。さらに、スルホン酸などの官能基を導入して、水溶性のLSRを合成し、水溶液系においても同様の挙動が見られるかを検証する必要がある。 R型を開環してエネルギーを取り出す水素結合性導電性高分子触媒(HCPC)の開発については、ポリニュートラルレッドに加え、より貴な還元電位を有するチアジンのアズールAの重合にも成功した。電解重合効率を精密に決定するため、EQCM電極を導入して分析を開始したが、酸化時に金電極が溶解する問題に直面し、現在電極材料の改良をメーカーと相談している。また、HCPC修飾電極上での上記O/Rのレドックス特性評価にはまだ取組めておらず、ロック&キーコンセプトのロックは見いだせたものの、キーはまだ見いだせていないというのが現段階での状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
閉環構造還元型(R)の1,2-dihydro-1,2-diphenylacenaphthyleneと開環構造酸化型(O)の1,8-dibenzoylnaphthaleneについて、Rの大気中酸化(自己放電)に対する安定化が確認され、LRSのコンセプトを実証出来たことは期待通りの成果と言える。しかし、同様に分子内ピナコールカップリングによる閉環安定化分子について、水溶性の分子合成が達成されておらず、最終的に意図する大気下電力貯蔵システムの構築には、水溶性ならびに水中で還元プロトン付加閉環化して安定に貯蔵出来るレドックス電位の制御が必要となり、それは初年度には未達成である。 さらに、還元安定化された状態を可逆的に酸化開環し、エネルギー取出しするためのHCPCの開発も達成出来ていない。本研究構想の目標達成には、LRSとHCPC双方を揃える必要があり、現時点ではまだ道半ばである。組合せ候補となる材料群もまだ多種得られているわけではなため、現状では予定よりもやや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
水溶性LRSの開発が急務であり、水溶性と酸化還元電位を調節した分子群を合成し、そのレドックス挙動を確認する。特に還元電位のpH依存性を詳細に調べ、電気化学量論比及び共役酸のpKaと分子構造の相関を解明する。スルホン酸基の導入が水溶性の向上に有効と期待されるが、初めから高いエネルギー密度を狙う必要はないので、コンセプトを実証することに注力する。 HCPCについては、水溶性LRSが得られた時点でその機能評価を開始する。これまでに得られたポリニュートラルレッド、ポリアズールAの他、種々のフェナジン、チアジン、オキサジン色素をモノマーとして電解重合法による高分子膜合成を試み、その触媒能を評価する。また、水素結合性官能基を有するポリチオフェンも合成し、HCPCとしての機能を評価する。さらにこれらの共重合体も候補となる。また、EQCM法による電解電気量と析出物重量の相関から、電解重合機構とそのファラデー効率も算出し、設計自由度の高い被覆電極作製法を確立する。 有望なLRSとHCPCの組合せが得られたならば、それらによるレドックス電池を構築し、充放電サイクルのエネルギー変換効率を算出するまでを次年度の目標としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実施内容は計画通りであり、消耗品費が予算よりもやや少額で済んだことが残額が発生した理由である。次年度には、より多くの材料種に取組む他、所期の成果が得られた系についてスケールアップを進める予定なので、残額は次年度の消耗品費、主に試薬代に充てる計画である。
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