研究実績の概要 |
合成単離に成功した開環酸化型の1,8-dibenzoylnaphthalene(DNPO2)と閉環還元型の1,2-dihydro-1,2-diphenylacenaphthylene(DNP(OH)2)のアセトニトリル溶液について電気化学測定、バルク電解と生成物分析を行い、前者が-2.1 V vs. Fc/Fc+付近で還元されるが、非プロトン性溶媒中であるため後者の生成は起こらず、還元体ラジカルの生成を伴うのに対して、後者の前者への酸化開環が+1.1 V付近で起こることを結論付けた。すなわち、還元体が再酸化に対して著しく安定化されるロッカブルレドックスシャトル(LRS)となり得ることを明らかに出来た。やはりプロトン付加体の生成が重要であり、水溶性のLSR合成を試みたが難航し、研究期間内には合成評価出来なかった。一方で、DNP(OH)2を-2.1 V付近で酸化ディスチャージ出来る高分子触媒電極(キー)を見出すには至らなかった。水素発生触媒能を見出したポリニュートラルレッド(PNR)については、EQCM法を用いた電気化学分析により、PNR還元に伴うNRモノマーの静電吸着が重要な素過程であり、その吸着種の酸化と電極近傍でのラジカルカップリングによってPNRの成長が起こっていることを明らかにした。その原理に基づき、PNRの還元とNRモノマーの表面濃縮とNRの酸化重合を繰り返すパルス電解法を用いることで製膜レートの向上を果たすことが出来た。この成果は、今後種々の導電性高分子触媒合成において重要な知見を与える。上記DNPO2とDNP(OH)2についてDFT計算を行い、そのエネルギー構造を推定したところ、計測された酸化還元電位にほぼ呼応するHOMO, LUMO電位となったことから、プロトン付加を伴う構造変換によって失われたエネルギーを熱的に獲得することは容易ではないと推定された。
|