電子アクセプター部としてシアノベンゼンを有する熱活性化遅延蛍光 (TADF) を示す有機分子を5種類合成した、これらをレドックス光増感剤として用い、マンガン(I)触媒と組み合わせて、CO2還元光触媒反応を行った。その結果、電子ドナー部としてジフェニルアミン基を有するTADF有機分子2種類が優れた光増感剤として機能し、COとHCOOHを生成した。特に、光増感剤として4DPAIPNを用いると、ターンオーバー数 > 650、量子収率23%と最も優れた光触媒性能を示した。これは、有機分子光増感剤を用いた系のうちで最高値である。 さらに4DPAIPNの光誘起電子移動過程を詳細に解析したところ、三重項励起状態だけでなく、一重項励起状態も還元的に消光されることが分かった。反応条件を工夫し、一重項励起状態が電子移動に関与する割合を減らしたところ、CO2還元反応の量子収率が43%まで向上した。これは、一重項励起状態からの電子移動過程で生成する一重項ラジカルイオンペアからの逆電子移動が高速で進行し、光エネルギーをロスしてしまうためだと考えられる。すなわちTADF有機分子を光増感剤に用いるための方針として、できるだけ三重項励起状態を多く生成し、一重項励起状態の電子移動への関与を減らす、反応条件設定、あるいはTADF有機分子の分子設計が重要だということを明らかにした。 また、ルテニウム(II)錯体光増感剤に三重項エネルギーリザーバーとしてペリレンを連結した複合体は、分子内エネルギー移動を経由して410μsと長寿命の励起状態を生成した。これはペリレン無しのモデル錯体より7600倍長い。また複合体を光増感剤に用いてCO2還元光触媒反応を行ったところ、モデル錯体の系と比べて2倍量のCOを生成した。
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