研究実績の概要 |
申請者は、これまでに分子性金属錯体触媒の自己集積によって構築される多孔性分子触媒材料、「フレームワーク触媒」を独自に開拓してきた。本材料は、原子レベルで構造・電子状態が規定された細孔中に触媒活性点を自在に導入可能である点で既存の多孔性結晶材料とは一線を画す。このフレームワーク触媒の開発研究を進める中で、CO2還元を触媒するフレームワーク触媒(Small, 2021, 2006150)において、H2O中とD2O中とでその触媒反応速度が大きく異なり、その速度論的同位体効果(kinetic isotope effect, KIE)がおよそ100と非常に大きな値を示すことが判明した。この大きなKIEは、フレームワーク触媒中で水素原子の量子トンネリング現象(K. Kuwahata et al., Phys Rev Lett., 2015, 115, 133201)が生じることに由来すると解釈できる。この事実は、フレームワーク触媒が水素のトンネリング現象を室温で発現可能な特異な材料であることを示している。 上記の萌芽的知見を礎に、本研究では、申請者が独自に開発してきたフレームワーク触媒を基軸とした水素同位体の高効率分離・精製手法の確立を志向した研究を展開する。そのために、疎水性分子認識場と水素イオン変換触媒サイトとを併せ持つ新規フレームワーク触媒を開発することを目標とした。 本年度の研究においては、ロジウム二核錯体からなるフレームワーク触媒FC1の機能評価を実施した。その結果、非常に高い反応速度(8.0××104 μμmolh-1g-1)での水素発生が確認された。この反応速度は、既存のMOFならびにCOFなどの類似材料を触媒として用い可視光条件下かつ水溶液中で行った水素発生反応の中で最高クラスの値であった。
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