研究課題/領域番号 |
22K19101
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
長澤 和夫 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10247223)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | 廃用性骨粗鬆症 / ビタミンD代謝物 / 重水素標識化合物 / LC-MS/MS解析 |
研究実績の概要 |
哺乳類の骨密度は「破骨細胞による骨破壊」と「骨芽細胞による骨形成」からなる骨代謝バランスにより厳密に制御されている。ヒトの場合、骨代謝のバランスはビタミンD (以下VD)やビタミンKなどの栄養素、また運動等による骨への力学負荷 (運動負荷)により調節される。特に力学負荷が減弱すると、骨破壊 (骨量の減少)が異常に亢進することで骨代謝バランスが破綻し、廃用性骨粗鬆症になる。本疾患は、入院や加齢等で寝たきり状態の継続、また宇宙滞在時の微小重力環境により引き起こされ、現代の高齢化社会の喫緊の課題である。これまで本疾患に関し、実験室レベルで検証可能な力学負荷の加重による骨代謝機構が精力的に研究されている。一方、力学負荷の減弱で亢進する骨破壊機構は依然不明である。本研究では、一部の哺乳動物が冬眠環境等で力学負荷が減弱した状態で廃用性骨粗鬆症が観察されないことに着目し、当該動物の活動期と冬眠期での血中における、骨代謝に重要なVD代謝物群の各濃度を調べることで、廃用性骨粗鬆症の亢進を阻害する鍵化合物をVD代謝物群の中から同定することを目的とした。また、見出した代謝物の金または骨細胞での機能について検証することを目的とした。 血中からVD代謝物群の各濃度を測定するためには、LC-MS/MS法を用いるが、これらの濃度を正確に測定するためには、各VD代謝物の重水素標識化された誘導体が必要になる。昨年度までに、重水素化標識VD代謝物の合成法を開発した。また合成した標識代謝物類を用い、冬眠動物の活動期と冬眠期の血清サンプルからVD代謝物群の濃度を比較することで、両時期で濃度が異なる代謝物を同定した。本化合物の筋芽細胞に対する予備的評価を行い興味深い結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までに、重水素標識を行ったビタミンD誘導体の合成法の開発を行うことができた。本年度は本手法を基盤に、10種類のビタミンD代謝物の合成を新規に行うった。合成においては、昨年度までに開発した手法に従い、複数の重水素が導入されたA環等価体を合成し、これを代謝物のCD環構造を有するシントンと系統的にカップリングすることで、D 化VD代謝物を系統的に合成することができた。 合成した化合物を用い、冬眠動物の活動期と冬眠期の血清サンプルからVD代謝物群の濃度を比較した。その結果、代謝物の一つについて、これらの両時期で濃度が大きく異なるものを発見した。そこで本代謝物を再度化学合成し、これを用いて、筋芽細胞への影響を評価した。その結果、当該代謝物は大変興味深いことに、活性型ビタミンDとして知られる1,25Dとほぼ同様の活性(詳細は論文化後に公表予定)を示すことがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年は、冬眠期において活動期とは異なり高濃度で存在するビタミンD代謝物を発見することができた。またこの代謝物の筋芽細胞に対する予備的知見を得ることができた。これらの結果をもとに、当該代謝物のRNA量の変動やタンパク質の変動を調べる。また当該代謝物をプローブ化して、ケミカルバイオロジ-の手法によりその標的タンパク質の同定を計画し、その作用機序の解明についても検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、新型コロナ等の影響で、合成に必要な特殊試薬(中国等からの輸入が必要となる試薬)の遅配があり化合物の合成開発が一部遅れた。そのため計画全体が遅れている。昨年度はその遅れを一部解消することができた。またVD代謝物の一つに、これまで知られていない生物活性を見出す新たな進歩もあった。今後当初計画していた研究(発見した代謝物の生物活性の評価)が十分に遂行できると考える。
|