本研究では、申請者が独自に開発した標的指向型ファージ提示法によるペプチドリガンド探索とクラスター効果を利用してリガンドの結合活性を飛躍的に向上させるナノ粒子技術を融合させることにより、ナノ粒子型ペプチド医薬品を開発するための萌芽研究を実施した。 令和5年度は4年度に引き続いて「ガレクチン3に特異的に結合する糖ペプチド阻害剤の探索と蛍光シリカナノ粒子の調製」を実施した。令和4年度は、ガレクチン3に対して結合活性を示す糖ペプチドを提示したファージの同定まで完了している。令和5年度は、ガラクトース修飾環状ペプチドを化学合成し、ガレクチン3に対する結合・阻害活性を評価した。蛍光偏光測定によりガレクチン3に対する結合活性を評価した結果、ガレクチン3に対して高い結合活性を示す結果を得ることができた。競合阻害実験により、このペプチドがガレクチン3の糖結合部位に結合していることを明らかにした。 ガラクトース修飾環状ペプチドの蛍光シリカナノ粒子への修飾を実施した。修飾反応を検討した結果、アジド基とアルキン基のクリック反応が適切であることがわかった。しかしペプチド修飾反応の進行とともに蛍光シリカナノ粒子が凝集することがわかった。そのため、蛍光シリカナノ粒子の表面を水溶性官能基で修飾し、反応条件をさまざまに検討した結果、蛍光シリカナノ粒子の分散安定性を保持した状態で1粒子あたり30個程度のペプチドを修飾する条件を確立することに成功した。さらに、クラスター効果により結合活性が向上することを示す結果を得ることができた。以上から、標的指向型ファージ提示法によりターゲットに対して高い結合親和性を示す糖ペプチドリガンドを獲得することができ、これを蛍光シリカナノ粒子上に集積することにより結合活性が向上したナノ粒子型ペプチド医薬品を開発するための基盤的成果を得ることができた。
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