研究課題/領域番号 |
22K19106
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大神田 淳子 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (50233052)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | フシコクシン / 14-3-3 / bump and hole / 合理設計 |
研究実績の概要 |
最近我々は、ジテルペン配糖体フシコクシン (FC)が孔辺細胞中の細胞膜 (PM) H+-ATPaseと14-3-3の安定な3者会合体を形成することで気孔開口と光合成活性を亢進し、成長を促進させる活性を持つことを見出した。PM H+-ATPaseと14-3-3は植物全体に発現し、養分吸収、輸送などにも関与するため、FCが気孔開口を介して成長促進効果にどの程度関与しているかはまだ明らかではない。本研究では、FCによる気孔開口と成長促進効果の相関を詳細に検証する目的で、FCと14-3-3のbump-and-holeペアを開発した。設計として、14-3-3のF129を小さい疎水性アミノ酸残基に点変異させ、FCの16位に空間を充填するような置換基を導入することを考えた。 FC-Hの16位に種々の置換基を導入した誘導体を合成した。また、野生型およびF129G, A, V変異を導入した組換え14-3-3を大腸菌から発現精製した。さらに、AHA2 C末端に蛍光基を導入したリン酸化C末端ペプチドを用いた蛍光偏光滴定実験により乖離定数を算出し、化合物の安定化効果を評価することで最適な直交性ペアの探索を行った。 16位にOBn基を導入したFC誘導体がWTとAHA2ペプチドの相互作用に対して作用しない一方で、F129G変異体との結合をわずかに安定化し、直交性ペアとして機能することがわかった。水素結合ドナーとして3位に水酸基を導入した16位OBn体はF129Gにのみ約20倍の安定化効果を示した。In vitro結合試験で直交性ペアの探索を行ったところ、16位にOBn基を導入したFC誘導体が野生型とAHA2ペプチドの相互作用に対して作用しない一方で、F129G変異体との結合を有意に安定化し、直交性ペアとして機能することが分かった。本ペアは、FCによる気孔開口と成長促進機構解明に役立つと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでに植物毒FC-AがA. thalianaの気孔開口と光合成活性を亢進し成長を有意に促進するという通説と相反する活性を持つことを見出した。本研究では2種類のFC-Aの生合成中間体を用いた化学生物学的アプローチにより、FC-Aの成長促進活性が、14-3-3とH+-ATPaseのたんぱく質間相互作用の安定化による気孔開口の促進によるものであり、その結果光合成活性が亢進され植物重量がおよそ30%程度増加することを明らかにした。真菌のバイオ生産により大量取得が可能なFC類は、食糧生産効率を改善する植物成長促進剤として農業利用が期待される。 一方、今回開発に成功したFC-14-3-3の直交性ペアは、今後植物体に応用することによりFC-Aの植物成長促進活性の詳細な分子機序の解明に役立つと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
FC-Aの植物成長促進活性についてより詳細な検証を進める。例えば、FC-Aは従来気孔開口と蒸散を亢進して植物を枯死に至らしめる毒として広く知られてきたが、その毒性のメカニズムは明らかになっていない。今後、乾燥条件下で植物体にFC-Aを作用させたときに成長促進活性にどのような影響が現れるかを検討する。また、本研究では植物の葉面に直接塗布または撒布する方法でFC-A処理を行ってきたが、根から吸わせた場合に表現型のどのような変化を及ぼすかの検証が待たれている。植物体内におけるFC-Aの動態解析と併せ解析を進める。 一方、bump-and-holeペアについては、今回開発した変異型14-3-3を発現するシロイヌナズナを作出し、FCによる成長促進活性に与える影響を調べる。実験結果に基づいて、孔辺細胞中のH+-ATPase-14-3-3のたんぱく質相互作用の亢進と植物成長活性の相関を明らかにする。また、今回開発した直交性ペアの動物細胞への応用も試みる。ヒト14-3-3の7種類のisoformのうちストレスシグナルの調節に関わるものについて直交性ペアを作出し、in vitroでの結合試験により機能評価を行う。良好な結果が得られた場合は、改変型14-3-3の安定発現株を作出し、化合物による14-3-3 isoform特異的な変調と表現型への影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究における生化学実験を円滑に進めるためゲル現像装置の導入を予定していたが、別のプロジェクトで導入することになったため、予算を今年度に繰り越し、研究遂行に必要な生化学試薬、合成試薬、プラスチック消耗品に充当する計画とした。
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