化合物ライブラリーを利用した創薬研究は、目的とする生理活性を有する化合物をいかに探索するかに主眼が置かれてきた。本提案では生理活性を指標とせず、標的膜タンパク質との強い親和性を有する天然物を探索する。ここで代表者の開発した膜タンパク質親和性天然物探索法を活用する。このようにして得られた天然物を起点として、その親和性を保ちつつ、抗体-薬物複合体のように低分子薬剤を結合させる。これにより、高い標的特異性と薬理活性を併せ持つ画期的な新薬を開発する創薬戦略を提案する。このように本研究は、申請者の開発した独自技術を起点とした「天然物-薬物複合体」医薬の創成と、それに基づく新たな創薬分野開拓を目指す。 これまで、金ナノ粒子表面を薄い脂質膜で被覆し、ここに膜タンパク質を安定的に固定化する技術を確立した。現時点では膜タンパク質として好塩菌由来のバクテリオロドプシン(bR)や放線菌由来のカリウムチャネルKcsAを用いて検討を行った。さらにこれを天然脂質や天然有機化合物の混合物に作用させ、親和性の高い天然物をプルダウンし、LC-MSで検出するまでの実験スキームを完成した。この概念検証として、bR生産菌の有する天然脂質混合物から、bR結合脂質がプルダウンされることを証明した。さらにKcsAについても天然脂質混合物から特異的な脂質の探索に成功した。つまり本手法により膜タンパク質に対する親和性の高い天然物の取得が可能となった。 同時に、金ナノ粒子の赤色を利用した膜タンパク質親和性天然物の検出法も新たに開発した。実際、TLC後に脂質をPVDF膜に転写し、bRを担持した金ナノ粒子を作用させることでbR親和性脂質を赤色に染めることに成功した。本手法をマイクアレイ上の天然物ライブラリーに適用している。これにより、膜タンパク質親和性天然物の探索が効率化でき、天然物-薬物複合体創成の目途が立った。
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