通常のモノクローナル抗体に代わる二重特異性抗体の作製については、既に上市された複数の抗体医薬が存在することに加えて、臨床応用を視野に入れた基礎的研究が加速しており、現実的に臨床応用が可能な抗体誘導体の開発が有望視されている。そこで我々は、Fab-arm exchange (FAE)技術とよばれる抗体工学関連技術を用いて、より簡便に高機能な二重特異性抗体の創出を試みた。通常抗体は、ヘテロ4量体として存在し、それぞれペアとなる抗体のH鎖とL鎖が二組ずつ結合している。しかし、抗体のIgG1からIgG4までの4つサブクラスのうち、IgG4に特異的に生じる現象として、異なるIgGを混合させることで、交換反応が起こり、異なる二種類の抗原認識(Fv)領域を持つ二重特異性抗体を作製できることが報告されている。この現象は、IgG4に見られる特徴的な性質であり、二重特異性抗体の創出に応用する上で、非常に有用な特性である。一方で、ヒトIgG4はその構造的な特徴から、臨床応用されている抗体のフォーマットとしては数が少なく、一般的な中和活性の誘導にはヒトIgG1が利用される。上記の観点から、我々はIgG4で起こる自然現象を応用して、臨床的に有用なヒトのIgG1に対してアミノ酸配列を置換し、効率よく二重特異性抗体を創出する技術を開発することを目指し、研究を実施した。具体的には、免疫チェックポイント阻害薬として知られる、抗PD-1/抗PD-L1抗体を用いて、がんなどへの臨床応用を見据えた二重特異性抗体を作製するとともに、その二重特異性抗体の持つ特性を解析した。
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