研究課題/領域番号 |
22K19120
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 公則 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (80381276)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 母乳オリゴ糖 / 腸内環境 / 腸管上皮細胞 / Paneth細胞 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
母乳栄養が乳児期の健全な腸内細菌叢形成を促し、子の将来のさまざまな疾病リスク軽減に寄与するとの疫学的結果が報告されている。母乳による乳児期の腸内細菌叢形成には、その主要成分である母乳オリゴ糖の重要性が示唆されている。しかし、これまで母乳オリゴ糖の機能はビフィズス菌の選択的資化など共生側(細菌)の解析が中心に示されており、宿主側の腸管上皮細胞への作用は全く検討されていない。本研究は、母乳オリゴ糖の腸管上皮幹細胞ニッシェを形成する腸管上皮幹細胞とPaneth細胞に対する作用に着目し、宿主因子を介した腸内細菌叢形成および腸管組織形成のメカニズムをはじめて解明することで、腸管上皮幹細胞ニッシェ機能の修復および活性化の誘導による乳児の腸内環境発達機構の正常化を標的とした、新規疾患予防戦略を構築することを目的とする。2022年度は、小腸上皮オルガノイド(エンテロイド)生体外可視化ライブイメージングを用いて、母乳オリゴ糖のPaneth細胞顆粒分泌誘導能を解析した。乳糖由来オリゴ糖をマイクロインジェクション法にてエンテロイド内腔に導入したところ、Paneth細胞内顆粒の活発な内腔への分泌が示された。一方、コントロールとして導入したPBSにおいて顆粒分泌は観察されなかった。この結果は、母乳オリゴ糖の腸内細菌叢を介さない腸管上皮細胞への直接的な効果が存在することを明らかとした。また、今回本研究で示した腸管上皮幹細胞ニッシェへの母乳オリゴ糖が直接関与するシグナル伝達経路を明らかにするために、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を予定している。その基盤となる母乳オリゴ糖を導入したエンテロイドからPaneth細胞と幹細胞をセルソーターにて高純度に分離しRNAを抽出する各条件の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、母乳オリゴ糖の腸管上皮幹細胞ニッシェを形成する腸管上皮幹細胞とPaneth細胞への作用による腸内環境発生メカニズムの一端を、エンテロイドを用いたex vivo解析により明らかにした。また、腸管上皮幹細胞ニッシェへの母乳オリゴ糖が関与するシグナル伝達経路を明らかにするための基盤構築、およびマウスへの母乳オリゴ糖投与モデルによるin vivo解析の準備も進行している。したがって本研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、母乳オリゴ糖によるPaneth細胞と幹細胞へのシグナル伝達経路を解明するために、今年度に構築した基盤技術を応用してRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を進める。また、マウスへの母乳オリゴ糖投与による腸管上皮幹細胞ニッシェの生理的作用を介した腸内細菌叢制御と腸管組織形成の機序を解明するため、母乳オリゴ糖をマウスに経口投与し、経時的に糞便回収および腸管組織採取を行い、sandwich ELISA法によるαディフェンシン分泌量定量および、次世代シーケンスによる16SrRNA腸内細菌叢解析を実施する。両データの統計的相関解析により、母乳オリゴ糖の宿主因子からの腸内細菌叢制御機構を解明する。また、採取した腸管組織を各種上皮と幹細胞マーカーおよび、上皮間密着結合分子等を免疫蛍光染色後に組織透明化試薬で処理し、共焦点レーザー顕微鏡で3次元画像を取得し解析する。これにより、母乳オリゴ糖による新生児期から乳幼児期における腸上皮構造や機能発達への影響を組織構築的視点で明らかにする。
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