本研究は、母乳オリゴ糖の腸管上皮幹細胞ニッシェを形成する腸管上皮幹細胞とPaneth細胞に対する作用に着目し、宿主因子を介した腸内細菌叢形成および腸管組織形成のメカニズムをはじめて解明することで、腸管上皮幹細胞ニッシェ機能の修復および活性化の誘導による乳児の腸内環境発達機構の正常化を標的とした新規疾患予防戦略を構築することを目的とする。2023年度は、3次元培養系である腸管上皮オルガノイドにおいてPaneth細胞内顆粒の活発な内腔への分泌誘導が示された乳糖由来オリゴ糖(2022年度成果)を、C57BL/6に4週間毎日経口投与した群(投与群)と非投与群において体重測定、腸内細菌叢解析、腸内細菌叢を制御する宿主因子であるα-defensinの分泌量測定を経時的に、また腸管の組織学的解析を最終投与終了後に行った。体重は投与群と非投与群で同様の変移を示し、差は見られなかった。腸内細菌叢はβ多様性解析において、投与開始1週後から4週にかけて投与群と非投与群で異なる腸内細菌構成を示した。α-defensin分泌量は投与開始2週で投与群において上昇が示された。投与開始4週後に小腸の組織学的に解析したところ、投与群において、絨毛長、陰窩長、Paneth細胞数の増加が示された。また、大腸炎モデルに乳糖由来オリゴ糖を経口投与することで、オリゴ糖の腸管上皮細胞ニッシェへの保護を介した急性炎症への予防効果を評価したところ、投与群は大腸炎による体重減少を抑制した。以上より、本研究の成果は、母乳オリゴ糖が腸腸管上皮幹細胞ニッシェを形成するPaneth細胞に及ぼすメカニズムを示すとともに、乳児期の腸内環境改善を介した感染症などの疾患に対する新規予防法および治療法開発への貢献が期待される。
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