研究課題
酸化還元を基盤としたタンパク質翻訳後修飾であるレドックス制御は、植物の光合成制御において必須の役割を果たしている。研究代表者は、この制御システム全体の分子機構と生理機能の包括的解明を目指して研究を行っている。その過程において、最近、これまで知られていなかった還元力伝達経路が葉緑体に存在し、光合成反応を光照射に応答して迅速に制御している可能性を示唆する結果を得た。そこで本研究課題では、未知の還元力伝達経路の実体を解明し、新規の光合成制御メカニズムを明らかにすることを目的とした。これまで、研究代表者がプロテオミクス解析により見出した葉緑体チラコイド膜の新規レドックス分子候補に着目し、その機能解析を進めてきた。前年度までに、このレドックス分子候補がチラコイド膜のストロマ側に表在していることを明らかにしたものの、全長のリコンビナントタンパク質の発現・精製が律速となって試験管内での機能解析が思うように進んでいなかった。本年度は、N末端側のアミノ酸配列を改変することで大腸菌での発現向上に成功し、その後精製標品を得ることができた。このレドックス分子候補は酸化還元処理によってチオール基の状態を変化させていることを見出し、レドックス感受性を備えていることを明らかにした。また、ゲノム編集によって作成した該当分子のノックアウト株シロイヌナズナの表現型解析(生育解析・光合成解析)を行った。非ストレス条件では明確な表現型が認められなかったため、該当分子はストレス条件で機能している可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
注目している新規レドックス分子候補に関して、前年度まで難航していた大腸菌でのタンパク質発現・精製をクリアし、その後の生化学解析に向けた土台構築を達成できた。生理学解析においては、シロイヌナズナを用いて該当分子の完全ノックアウト株を作出し、表現型解析を進めている。さらに、本研究を進める過程で、チラコイド膜のレドックス制御システムに関する新たな研究展開があった。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価する。
タンパク質レベルでの機能解析を進め、注目するレドックス分子候補が還元力伝達活性を持つのか、その場合どのような葉緑体酵素を標的とするのかなどの分子の特徴づけを行う。精製タンパク質を用いた試験管内での構成的手法によって解析を進める。また、植物内での役割を明らかにするために、ノックアウト株を用いた生理解析を引き続き行う。通常の条件では表現型の変化を観測できなかったので、今後は条件を変えつつ測定パラメータを拡張して解析を進める(酸化ストレス条件での詳細な光合成解析など)。
本年度は新規レドックス分子候補の発現・精製条件の確立までは到達したものの、その後実施予定であった試験管内での生化学解析までには十分に到れず、その分の消耗品費として次年度使用額が生じた。次年度、生化学解析のための消耗品費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.res.titech.ac.jp/~biores/