研究課題/領域番号 |
22K19132
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
浅川 晋 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50335014)
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研究分担者 |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30285241)
渡邉 健史 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60547016)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 水稲 / 根圏 / 連作障害 |
研究実績の概要 |
湛水下で栽培されるイネ(水稲)には土壌病原菌による連作障害が起きない。従来,湛水で生じる土壌の還元・嫌気状態により好気性の土壌病原菌の活動が抑制されることがその原因とされてきたが,水稲と同様に湛水下で栽培されるレンコン,クワイにはフザリウム等による連作障害が起きるため,他に原因があると思われる。本研究では,地上部より送られる酸素が根から漏出し,酸化的となるイネの根圏で活発化する微生物活動と生化学反応が土壌病原菌に対する抑止性に関与していると想定する。水稲根圏において,優占して生息する原生生物の捕食作用,根周囲の酸化還元境界層の鉄酸化反応,根からの酸素と有機物で増殖する細菌・糸状菌群集に注目し,水稲が土壌病原菌に対し抑止性を発揮している機作を探ることを目的とする。 まず、実験に供試する病原菌の選定を行った。本研究ではフザリウム属菌を対象として用いることを想定している。これまで、レンコンやクワイに対して病原性を示すことが知られていたFusarium communeの菌株がイネ(インディカ種)に対しても根腐れや地上部の萎凋を引き起こすことを2021年にマレーシアの研究者が報告した。そこで、日本の水田土壌等より分離されたF. commune菌株を国内の微生物保存機関およびフザリウムの研究を行っている研究室から分譲あるいは譲受し、ジャポニカ種の日本晴の実生苗に接種し、病原性を示すかどうか確認した。供試した6菌株の全てについて、根の伸長抑制と褐変が生じることが確認でき、いずれの菌株もイネに対し病徴を示した。また、病原性の程度には菌株間で差が見られた。以上より、これらのF. commune株を水稲根に病徴を起こす病原菌として今後の実験に供試できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではフザリウム属菌を水稲に対する病原菌として用いることを想定していた。これまでイネの根に明確な病徴を生じるフザリウム属菌は国内では知られていなかった。さらに、国内で最も多くのフザリウム属菌が寄託されている微生物保存機関のそれぞれの菌株の記載を調査したが、根に対する病原性を明記している寄託株はなかった。このような状況下で、レンコンやクワイに対して病原性を示すことが知られていたFusarium communeの菌株がイネ(インディカ種)に対しても根腐れや地上部の萎凋を引き起こすことが報告された。そこで、微生物保存機関に寄託されているフザリウム菌株の記載を再度チェックし、日本の水田土壌より分離されたF. commune菌株を選抜した。これまでの研究により、F. communeの菌株がジャポニカ種のイネの根に病徴を生じることを明らかにでき、供試する菌株候補の準備を整えることができた。以上より、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
水稲が土壌病原菌に対し抑止性を発揮している機作を探るため、今回得られた研究結果に基づき、イネの根に対する病原性の程度が異なる複数のF. communeの菌株を用いて以下の3つの観点から解析を進める予定である。原生生物による捕食作用については、イネ根圏より分離された原生生物株がF. commune株を捕食するかを調査する。根圏での鉄酸化反応による病原菌の抑止作用については、化学的および生物的鉄酸化反応に伴うヒドロキシラジカルの発生の確認とF. commune株に対する生育抑制作用を調査する。根圏に生息する微生物(細菌・糸状菌)による抑止作用については、圃場において湛水水田条件および落水畑条件でイネを栽培し、それぞれのイネから調製した根圏土壌試料について、フザリウム共培養法を用いてF. commune株に対する抑止作用の調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題採択が年度途中であったため、学会発表等の旅費を使用する機会がなかったこと、すでにイネの野外での栽培期間を過ぎていたため圃場試験ができなかったことにより、次年度に使用することとした。次年度は年度当初より予算執行が可能であるため、学会発表等の出張や圃場試験によるイネ栽培を実施し、予算を執行していく計画としている。
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