研究課題/領域番号 |
22K19136
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中山 二郎 九州大学, 農学研究院, 教授 (40217930)
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研究分担者 |
井上 貴子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (00431700)
中尾 洋一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60282696)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / 腸内フローラ / エピゲノム / 胆汁酸 / 腸内メタボローム |
研究実績の概要 |
生活習慣病として増加の一途をたどる2型糖尿病であるが、その怖さは、自覚症状のないままに血管障害が進行し、神経障害、網膜症、腎症、動脈硬化など患者のQOLを脅かす合併症に進展していくことである。研究分担者の中尾らは、高グルコース濃度にさらされたヒト血管内皮細胞では、生じるゲノム損傷に対応してヒストンH2Aの40番目のセリン残基側鎖のO-GlcNAc修飾レベルが亢進することに着目して研究を進展させている。このような、エピゲノム修飾を通して、糖尿病に起因する血管障害の進行度合いに違いが生じている可能性は十分に想定される。特に、食と健康のインターフェースとして、人体に日々大量の代謝物を送り込む腸内細菌叢のエピジェノミックな作用について興味が持たれる。そこで、本研究では、人間ドック受診者を対象に、2型糖尿病発症者のデータを参照し、腎機能正常群と低下群に分けて糞便をサンプリングし、その糞便中の代謝物のエピゲノム修飾機能を調べることにした。 本年度は、まず、上記2群の糞便について、細菌叢解析を行った。その結果、腎機能正常群にはプレボテラ属細菌、パラバクテロイデス属細菌、ラクノクロストリジウム属細菌が多く、一方、腎機能低下群にはアリスティペス属細菌が多かった。 一方、腸内細菌の代謝物とエピゲノム修飾の関連性について、まず、腸内細菌の主要代謝物である胆汁酸についてヒストン脱アセチル化酵素であるSIRT1とSIRT2の阻害活性を調べたところ、腸内細菌により脱水酸化され生成する二次胆汁酸"リトコール酸"に、SIRT1阻害活性が認められた。 今後は、2群の糞便のメタボローム比較解析を希少胆汁酸も含めて行い、一方、ヒストンH2AのGlcNAc修飾についても調査し、腸内細菌叢とその代謝物とエピゲノム修飾と糖尿病患者における腎機能低下との関連性について調査していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず上記のように、2型糖尿病患者の腎機能低下群と正常群間に、細菌叢の有意な差を検出することに成功した。また、腸内細菌の主要代謝物であるリトコール酸に、エピゲノム修飾に対して主体的に影響力を有するSIRT1の阻害活性を見出している。以上より、本研究を継続させることで、2型糖尿病患者におけるエピゲノム修飾を介する血管障害進行への影響について、新たな事実を見出すことができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2群の糞便のメタボローム比較解析を希少胆汁酸も含めて行い、一方、ヒストンH2AのGlcNAc修飾についても調査し、腸内細菌叢とその代謝物とエピゲノム修飾と糖尿病患者における腎機能低下との関連性について調査していくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
胆汁酸を含めてメタボローム解析をより大規模に行う予定であったが、今年度は、主要胆汁酸の解析にとどまったため、100万円を超える未使用金が生じた。2023年度は、網羅的メタボローム解析を始め、メタゲノム解析、そして分担者の中尾らのグループにおける、網羅的エピゲノム修飾解析を展開し、最終年度の本研究を予定通り完結させる計画である。
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