研究課題/領域番号 |
22K19138
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
得平 茂樹 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (90548132)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 窒素固定 / 光合成 / 窒素化合物 / シアノバクテリア / ヘテロシスト |
研究実績の概要 |
本研究では、シアノバクテリアの窒素固定能力を極限まで引き上げ、現在の膨大なエネルギーを消費する工業的窒素化合物生産から、光エネルギーによる持続可能な窒素化合物のバイオ生産へと転換するゲームチェンジングテクノロジーの創出を目指す。 糸状性シアノバクテリアの一種であるAnabaena sp. PCC 7120は,一部の細胞をヘテロシストと呼ばれる窒素固定に機能特化した細胞に分化させることで、光エネルギーを利用して炭酸固定と同時に窒素固定を行うことができる。ヘテロシストは光エネルギーを利用して窒素固定を行う最も優れたシステムであると言われており,このシステムを利用することで工業的アンモニア生産に依存しない革新的な窒素化合物のバイオ生産技術の確立を目指す。今年度は,ヘテロシストにおける窒素固定効率をより向上させる遺伝子改変に取り組んだ。窒素固定活性はその産物によるフィードバック阻害を受けると考えられており,過剰に窒素固定を行わせるにはそのフィードバック制御を解除する必要がある。そこで,フィードバック阻害を引き起こす窒素固定産物を速やかに他の化合物へと変換させる代謝改変を行なった。その結果,代謝経路を制御するレギュレーターを変異型に置き換えることにより,窒素固定活性を野生株の2倍に上昇させることに成功した。そして,窒素固定活性の上昇にともない,細胞内の窒素貯蔵物質量も2倍に増加した。本研究は,シアバクテリアにおいて窒素固定活性を遺伝子改変に向上させた最初の成果であり,今後の研究開発の基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実施内容は当初の計画通りであるが,その成果(窒素固定活性向上への影響)は予想を超えたものであった。これまでの成果をもとに,さらなる遺伝子改変を重ねることで想定以上の進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,窒素固定産物によるフィードバック阻害を解除することで窒素固定活性が向上することが示された。フィードバック阻害の標的となる酵素は,窒素固定産物の合成経路の酵素であると考えられるため,今後合成経路にある他の酵素についてもフィードバック阻害を解除していくことでさらなる活性向上が期待できる。いくつかの酵素に関して,フィードバック阻害が報告されており,それらの酵素の改変による活性への影響を評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
様々な遺伝子改変株を作製し,それらの株についてトランスクリプトームやメタボローム解析を行う予定であったが,今年度に作製した一つの遺伝子改変株により窒素固定活性の上昇が見られたため,その株について解析を進めた。次年度は遺伝子改変の影響の詳細をより明らかにするため,トランスクリプトーム解析,メタボローム解析を実施するとともに,この成果をもとに標的とする酵素を絞り,その改変による影響を詳細に解析していく。
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