グラム陰性細菌の大きな1群であるPseudomonas属細菌は、Gac/Rsm系と呼ばれる独自の細胞間コミュニケーション機構を持ち、いわゆるクオラムセンシング(QS)様の挙動を示す。2001年に本機構で機能する二成分情報伝達系GacS/GacAが発見されて以来、世界中の研究者がGacSリガンド同定に取り組んできた。しかし、本機構の天然リガンドは未だ謎のままである。Gac/Rsm系は、土壌に生息するPseudomonas属細菌からヒトに日和見感染症を引き起こすP. aeruginosaまで保存されており、Pseudomonas属細菌の特性を最上位で制御している。応募者はこれまでに、同種・異種微生物間で機能する多くの化学コミュニケーション分子を解明してきた。同種微生物間コミュニケーションのenigmaとも呼ばれる、Pseudomonas属細菌のQSシグナル分子を解明し、微生物学・天然物化学分野におけるブレークスルーを達成する。 昨年度に引き続き、GacSリガンドの精製を試みたが予想以上に難航し、目的物質の単離に成功しなかった。そこで、リガンド合成酵素遺伝子を過剰発現した株やE.coliで該当遺伝子を発現した株からの精製も試みたが、これらの場合も途中で活性を見失う状況となった。考えられる原因として、GacSリガンドがとても不安定であること、生産量が極めて微量であることなどがあげられる。また、これらの研究を進める過程で、別の因子も細胞間でやり取りされている可能性が見出されてきた。すなわち、活性分子が複数種あり、当初の予想よりも複雑な細胞間コミュニケーションであることが示唆された。より感度の高いアッセイ法を開発し、培養・抽出・精製を迅速に行うことでGacSリガンドの単離・構造決定が達成されることが期待される。
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