研究課題/領域番号 |
22K19142
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | アルツハイマー型認知症 / サーカディアンリズム / 時計遺伝子 / 記憶想起 / cAMP / 夕暮れ症候群 / 必須アミノ酸 / 老化 |
研究実績の概要 |
認知症モデルマウス(ADモデルマウス)群と時計遺伝子BMAL1の変異型マウスの相同性を行動レベルで解析した。アミロイドβ42(Aβ42)を海馬に局所注入したADモデルマウスにおける海馬依存性記憶能力の概日変化を解析した。社会認知記憶課題を用いて、明期開始後4時間(ZT4)と10時間(ZT10)においてトレーニングあるいはテストを様々な組み合わせで行った結果、Aβ42注入マウスではZT4及びZT10における記憶形成とZT4における記憶想起は正常に認められたのに対して、ZT10における記憶想起の異常が観察された。さらに、新規物体認識記憶課題および物体位置認識記憶課題でも同様にAβ42注入マウスではZT10における記憶想起異常が観察された。従って、Aβ42注入マウスにはZT10における記憶想起障害、すなわち、時間帯依存的な記憶想起障害が観察されることが明らかとなり、このAβ42注入マウスは時計遺伝子BMAL1の機能を阻害したBMAL1マウスと同様にZT10付近において時間帯依存的な想起障害を示すこと、さらに、認知症において観察される夕暮れ症候群のように認知機能低下の概日変化を示すことが明らかとなった。 一方、必須アミノ酸であるヒスチジン(His)は、脳内では覚醒や摂食、認知機能等を制御する神経伝達物質ヒスタミンに変換される。本課題では、His投与により記憶制御プロセス群が向上する可能性を検討した。社会的認知記憶課題において、トレーニングの24時間後にテストを実施した場合、テストの30分、1、2時間前にHisを腹腔内投与すると、社会記憶想起の向上が観察された。従って、His投与は記憶形想起を向上させることが示唆され、His投与はADモデルマウスとBMAL1マウスにおいて観察される記憶想起障害を改善する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Aβ42注入マウスはBMAL1マウスと同様にZT10付近において時間帯依存的な想起障害を示すこと、さらに、AD患者と同様に認知機能低下の概日変化を示すことが明らかとなった点、一方、His投与は記憶形想起を向上させることが示唆され、ADモデルマウスとBMAL1マウスにおいて観察される記憶想起障害を改善する方法としてHis投与が見出された点から、順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
行動レベルでAβ42注入マウスはBMAL1マウスと同様にZT10付近において時間帯依存的な想起障害を示すことが明らかになったため、ADモデルのトランスジェニンクマウスを複数系統入手し、同様の行動解析を実施して、ADモデルマウスにおいて共通してBMAL1マウスと同様な時間帯依存的な想起障害を示すかを解析する。特に、これまでに記憶障害が検出されてこなかった若年ADモデルマウスにおける想起力の軽微な障害をも検出することを試みる。さらに、 ADモデルマウス群とBMAL1変異マウスの相同性を分子レベルで理解するために、両マウス海馬のRNA解析を実施する。公開されているデータベースをin silico解析したところ、ADモデルマウスではBMAL1マウスと同様に時計遺伝子群とcAMP代謝関連遺伝子群の発現異常が示唆されたため、ADモデルマウス群の海馬におけるこれら遺伝子群の発現量を測定する。さらに、RNA-seq解析も実施して、ADモデルマウスとBMAL1マウスの海馬トランスクリプトームを比較する。続いて、AD変異と時計遺伝子変異との相互作用を解析するために、ADモデルマウスにshBMAL1を発現させた影響を解析する。具体的には、両変異の相乗・相加効果により記憶障害が悪化するか、また、ADモデルマウスにおける神経変性、組織萎縮、細胞死等などが悪化するかを解析する。最後に、ヒスチジン投与により、ADモデルマウスやBMAL1マウスの記憶想起障害が改善されるかを解析する。
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