認知症モデルマウス(ADモデルマウス)である5XFADマウスを入手し、海馬依存性記憶を形成する恐怖条件づけ文脈学習課題を用いて行動解析を実施し、時計遺伝子BMAL1の変異型マウスと同様に、明期開始後10時間(ZT10)付近に記憶障害が観察されることが確認された。さらに、アデノ随伴ウイルスを用いて5XFADマウスにBMAL1遺伝子のノックダウンを施した影響の解析を継続している。一方、必須アミノ酸であるトリプトファン(TRP)は、脳内では情動、睡眠、摂食、学習と記憶などの認知機能等を制御する神経伝達物質セロトニンに変換される。本課題では、TRP投与により記憶制御プロセス群が向上する可能性を検討した。社会的認知記憶課題においてトレーニングの24時間後にテストを実施した場合、トレーニングの1時間前、あるいは、テスト1の時間前にTRPを腹腔内投与すると、社会記憶の形成と想起の向上がそれぞれ観察された。TRP投与は記憶想起を向上させることが示唆され、TRP投与がADモデルマウスとBMAL1マウスにおいて観察される記憶想起障害を改善する可能性が示された。また、BMAL1変異マウスの記憶想起能力がZT10付近で時間帯依存的に低下する原因として、ニューロンに対するエネルギー供給低下が関連すると仮説し、グルコースを供給するグリコーゲンホスホリラーゼに着目し、記憶想起に対するグリコーゲンホスホリラーゼ阻害の影響も解析した。社会的認知記憶課題を用いた野生型マウスの解析では、ZT10にトレーニングを行い、24時間後のテスト前にグリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤を腹腔内投与すると想起の阻害が観察され、一方、ZT4で実験を実施した場合には、この想起の阻害は観察されなかったことから、上記仮説が正しいことが支持された。そこで、ADモデルマウスとBMAL1マウスも用いて解析を継続している。
|