研究課題/領域番号 |
22K19145
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
原 正和 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10293614)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | デハイドリン / リポソーム保護 / 天然変性タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究は、バイオ医薬品、特に新型コロナウイルスのmRNAワクチンを典型とする脂質ナノ粒子(LNP)の凍結融解安定化を目指し、高い酵素凍結保存活性を有する植物天然変性タンパク質(デハイドリン)の効果を検証することを目的としている。昨年度、デハイドリンの保存配列であるKseg(15アミノ酸)に高いリポソーム凍結保護活性を見出し、活性発現に必要な配列要件を明らかにした。すなわち、Ksegを構成する正電荷アミノ酸、負電荷アミノ酸、疎水性アミノ酸のすべてがそろった場合にのみ活性が現れ、Ksegのアミノ酸配列をシャッフルすると活性が消失することから、Ksegの配列はLNP凍結融解安定化作用の点で最適化されている事が判明した。本年度は、研究計画に即し新たなリポソーム超低温保護ペプチドについて研究した。まず、デハイドリンより高いリポソーム凍結保護活性を示したダイコン天然変性タンパク質RVCaBの活性部位の決定を行った。RVCaBはダイコンの主要な可溶性タンパク質であり、そのアミノ酸配列はデハイドリンのアミノ酸配列と全く異なっていた。蛍光標識リン脂質を用いた試験により、RVCaBは脂質二重膜の融合を効果的に阻止することが判明した。しかし、ペプチド分割法等による探求にもかかわらず活性部位を特定することは出来なかった。RVCaBをペプチド分割して配列が短くなると総じて活性が低下したこと、RVCaBはリポソームと共存した際に特定の二次構造をとらなかったことから、ひらひらとした構造による大きな流体力学的半径が、リポソーム凍結保護活性に寄与すると考えられた。以上の結果、リポソーム凍結保護活性を示す天然変性タンパク質には、特定の活性部位をもつもの(例えばデハイドリン)と、もたないもの(例えばRVCaB)があることが示された。今後は作用機構におけるバリエーションの広がりを把握し、その背景にある共通した保護メカニズムを解明する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、新たなリポソーム超低温保護ペプチドについて研究した。デハイドリンとは異なる天然変性タンパク質RVCaB(ダイコン由来)に高い活性を見出した。各種手法によって活性部位の特定を試みたものの決定には至らなかった。しかし、その試行錯誤の中で、RVCaBの低分子化が保護活性の低下を招いたこと、RVCaBはリポソーム存在下でも無秩序状態を保っていたことを見出した。つまり、ひらひらとした構造による大きな流体力学的半径が活性発現に関与していることが示唆された。このように、当初の計画通りの結果とはならなかったものの、天然変性タンパク質による超低温保護作用機構にはバリエーションがあることが判明したため、上記の判定を下した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と今年度において、計画通りに進めることができたため、次年度もまた当初の計画に従って実施する。具体的にはmRNAワクチン外膜組成を模したリポソームによる試験を行う。研究計画の変更はない。
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