研究課題/領域番号 |
22K19152
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島田 裕士 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 准教授 (80301175)
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研究分担者 |
佐藤 綾人 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任准教授 (10512428)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 光合成 / ケミカルスクリーニング / ハイスループット |
研究実績の概要 |
本申請の目的は光合成活性に影響を与える化合物(促進剤)をケミカルライブラリー(化合物バンク)からハイスループットスクリーニングによって発見し,得られた候補化合物を元に高活性・高選択性で毒性の無い化合物を見出し,基礎研究と産業応用に供することである。 ケミカルライブラリーから目的化合物のスクリーニングを行うにはアッセイ系のハイスループット化が必須である。従来の光合成測定は主にPAM (Pulse Amplitude Modulated fluorometry)とガス交換装置が使われてきた。しかし,PAMよる光合成測定は,実際には光合成効率(比)の解析であり真の光合成活性を測定することは不可能である。一方LI-6400等による光合成よるCO2固定速度測定は真の光合成活性測定ではあるが,1サンプルの測定に長時間かかり,一日に10サンプル以上を測定するのは困難である。そこで,我々は上記の問題を解決するために新たな光合成活性測定装置を開発した。本装置は,一度に24サンプルの光合成活性を測定する装置であり,1日に100サンプル以上のケミカル処理済み植物の光合成活性測定が可能である。本装置を用いて光合成活性促進剤のケミカルスクリーニングを行った。ケミカルスクリーニングに用いたケミカルライブラリーはITbM所有の植物に特化した特徴のあるケミカルライブラリーと食品関連化合物ライブラリーを用いた。食品関連化合物ライブラリーにはリンゴ、柚子、レモンの香り成分を収載した香料ライブラリー120化合物とアミノ酸、黄色4号として知られるタートラジンをはじめとした着色料、甘味料などを収載した調味料ライブラリー120化合物からなる。ケミカルスクリーングの結果2022年度は新規2種類の光合成促進剤の候補を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケミカルスクリーニングに用いる植物は,実験室内で生育が容易,比較的大きな葉が得られる,葉の光合成速度の個体差が小さい理由からチンゲン菜を用いた。チンゲン菜は温室(22℃,湿度約45%,明16時間・暗8時間)で生育した4週齢を用いた。上位葉の陰になっていない,毎回同様の大きさの葉を選定し,コルクボーラーによってリーフディスク(直径11 mm)を作成した。その際に単位面積当たりの光合成活性が低いと考えられる太い葉脈は避けてリーフディスクを作成した。 ケミカルスクリーニングは2日かけて行った。初日 (day0)は化合物処理前のリリーフディスクの光合成活性を測定し,測定後にリーフディスクを50 μMの化合物に浸した。翌日 (day1) に化合物処理後のリーフディスクの光合成活性を測定し,day0とday1の光合成速度の差を比較することで,光合成促進効果のある化合物のスクリーニングを行った。化合物による光合成促進効果は,同一化合物について独立した3回の調査を行い,同時に行った3回の未処理サンプルの2SD(標準偏差)を超えたものを促進効果のある化合物とした。 スクリーニングに用いたケミカルライブラリーはITbM所有の植物に特化した特徴のあるケミカルライブラリーとともに,食品関連化合物ライブラリーを用いた。食品関連ライブラリーは「食用とされていることから毒性が無く,生体でのプロファイルが明らかになっている」「始原作物とのリンクが明らかで,一化合物を見出した後の抽出物の作成が迅速かつ容易である」という特徴を有している。 ケミカルスクリーングの結果2022年度は新規2種類の光合成促進剤の候補を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
光合成促進効果を示すケミカルライブラリーならびに食品関連化合物ライブラリーのスクリーニングの1次スクリーニングを進める。得られた化合物の構造から構造類似体からなるライブラリーの2次スクリーニングを行う。本実験で用いているケミカルライブラリーはより効果の強い活性化合物を高い確率で見出すことが可能なライブラリーデザインとなっており,得られた構造相関情報は合成化学者によるさらなる分子設計方針に重要な方向性を示し,さらに活性が高く毒性が低いリード化合物への展開を加速することが期待できる。また,標的タンパク質の同定のためのプローブ分子のデザインにお1次スクリーニングで得られた構造相関情報を活用することが可能である。本年度はスクリーニングを進めるとともに濃度依存性試験を行う。また,1次スクリーニングで得られた複数の候補化合物を同時に処理した場合の光合成促進効果を調査する。 これまではチンゲン菜の葉をくり抜いたLeaf discで行っているが,今年度は得られた候補化合物の植物個体そのものへの影響も調査する。ケミカルスクリーニングには比較的同質のLeaf discが得られるチンゲン菜を用いたが,植物個体への影響を調べる材料としてチンゲン菜以外にも複数種の植物種を調査する。また,植物個体への影響を土壌栽培している植物で行った場合は土壌に含まれる様々な成分や微生物の影響が考えられるため,今年度はロックウールを支持体とした水耕栽培植物を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ケミカルスクリーニングに使用する化合物の購入をウクライナの会社に注文する予定であったが,ウクライナの状況により注文をすることが出来なかった。今年度は受注が可能であると代理店経由で情報をもらっており,今年度化合物の発注を行う予定である。
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