研究課題/領域番号 |
22K19180
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 龍平 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70294444)
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研究分担者 |
長坂 京香 京都大学, 農学研究科, 助教 (00931388)
西村 和紗 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 助教 (60835453) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ブドウ / ベレゾン / 熟期 / 枝変わり / ゲノム |
研究実績の概要 |
本研究では、ブドウの熟期に関連するベレゾン期の開始を制御する機構の解明に向けて、研究グループらが新規に発見した四倍体ブドウ‘ピオーネ’の熟期の異なる変異した枝(枝変わり)とその同一親株上の変異前(熟期が通常)の枝を利用した研究を展開しており、以下のような成果が得られた。 (次世代シークエンス解析)より正確に枝変わりと変異前の枝の間のゲノム比較のために、 ‘ピオーネ’のゲノム配列についてnanoporeによりロングリードを解読し、 de novo assemblyによりドラフトゲノムを作成した結果、参照ゲノムとして利用するには、さらに精度の高いドラフトゲノムの作成の必要性が示された。ベレゾン前後の枝変わりの枝および変異前の枝から果粒や葉などの器官をサンプリングし、RNA-seq解析を実施したところ、いくつかの発現変動遺伝子がみつかった。上述のより精度の高い参照ゲノムが作成され次第、第2染色体上の候補領域への座乗や器官特異性(果実ではなく他の器官での発現による制御なども含む)、および、配列情報を元にした機能の推定が実施できる環境を整った。 (非破壊的植物センシング)枝変わりの枝および変異前の形質を示す隣の枝について、ベレゾン前後の蒸散や光合成に関わる葉温の変化のサーモグラフィーによるモニタリングおよび蛍光画像の取得による光合成活性能・ストレス状態の検出などのセンシングに成功した。枝変わりの枝および変異前の形質を示す隣の枝の間にも明確な差は見出せず、これらのセンシング手法では検知できない生理的な変化が起こっておいると考えられた。 (挿し木個体の育成) 枝変わりの枝および変異前の形質を示す隣の枝いずれからも、挿し木による個体の増殖とその育成に成功している。これらの個体は、枝変わりの形質が安定的に現れるか(ゲノムレベルの変化か)の検証や原因候補遺伝子の発現操作試験に利用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、枝変わりおよび形質に変異がみられない隣の枝のゲノムレベルでの比較において、バックグランドは多いものの、変異が発生したと思われる候補領域の特定されており、特に、第2染色体上の候補領域は、これまでにQTLが報告されている領域と重なっており、この領域内の変異が熟期の制御に関わっている可能性が示されている。この変異を含むより高精度な解析を進め、候補遺伝子(群)の特定進めるために、 ‘ピオーネ’のドラフトゲノムの作成とRNA-seq解析による候補領域内の関連遺伝子の絞り込みが進んでいる。非破壊的モニタリングについては、ベレゾン前後の蒸散や光合成に関わる葉温の変化のサーモグラフィーによるモニタリングおよび蛍光画像の取得による光合成活性能・ストレス状態の検出などのセンシングに成功し、これらのセンシングでは枝変わり特異的な変化は検出されないことが明らかとなり、これらの技術では検知できない生理的な変化が起こっていると考えられた。また、今後の研究展開に必要な挿し木により変異個体および元の親株個体の育成も順調である。 RNA-seqにより各遺伝子について、果粒、葉などの器官特異性を明らかにすることが可能であることが示されており、より高精度なジェノタイピングにより候補遺伝子が特定されれば、その器官特異性および塩基配列情報から得られる機能の推定により、ブドウ果実の成熟開始の遠隔操作の検討が可能である。そこで、次年度は、次世代シークエンス解析用いた解析に注力するころにより、目標を達成できると考えられる。以上のように、本研究はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ブドウの熟期に関連するベレゾン期の開始を制御する機構の解明に向けて、研究グループらが新規に発見した四倍体ブドウ‘ピオーネ’の熟期の異なる変異した枝(枝変わり)とその同一親株上の変異前(熟期が通常)の枝を利用した研究を展開している。これまでは、次世代シークエンス解析と非破壊的植物センシング解析を実施してきたが、今年度は、以下のように、機構解明に繋がる可能性がより高い次世代シークエンス解析に注力する。 (高精度な参照ゲノムの作成とゲノム比較)枝変わりと変異前の枝の間のゲノム比較において、これまで第2染色体上に候補領域をみつけているが、現状では、濃淡はあるもののゲノムワイドにSNPsが検出されており、より高精度に候補領域を特定するために以下の解析を実施する。1)昨年度に続き、‘ピオーネ’ゲノムのロングリード解読を実施し、より高精度の参照ゲノムの作成を試みる。2)変異箇所の解析用のパッケージを最適化するとともに、他の四倍体品種の情報などを加えることにより、ジェノタイピングの精度を向上させることにより、候補領域のさらなる絞り込みを期待し、より高精度に変異箇所を特定を試みる。 (RNA-seq解析と挿し木繁殖個体の形質評価)昨年度に得られたRNA-seqデータについて、上述の高精度な参照ゲノムを用いたより高精度な解析を進めるとともに、年次反復を考慮し、再度、サンプリングとRNA-seq解析を行うことにより、候補遺伝子の探索と絞り込みを行うとともに、その発現の器官特異性や機能の推定などを行う。挿し木繁殖個体を育成するとともに、着果に成功した際には、その形質を評価する。さらに、原因遺伝子およびその作用器官が明らかになった場合には、遺伝子発現操作により、その証明試験を試みる。 以上より、ブドウの成熟開始制御における果実以外の器官による遠隔操作の可能性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
より高精度なドフラフトゲノムを作成し参照ゲノムを得るためのnanoporeを用いたロングリードの解読のためには、高純度のゲノムDNAを用いる必要がある。このためには、春に新しく萌芽した葉をサンプリングして解析に用いることが必須であることが明らかとなった。また、RNA-seq解析については、年次変動を確認することでより高精度に候補遺伝子の絞り込みと器官特異性や枝変わり特異性が検出できることが示されており、2023年度のサンプルだけで単に解析を繰り返すよりも、2024年度にサンプリングした果実や葉を用いた反復解析を実施することがより有効であることが明らかとなった。これらの理由により、次年度使用額が生じており、2024年度のサンプルを利用した抽出や解析などに使用する計画である。
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