我々は最近、性染色体がメス型(XX)のオスのメダカは、通常のXYのオスよりもメスに「モテない」ことを見出した。XXオスは機能的な精子を作り、外部形態や求愛の頻度も、通常のXYオスと変わらない。にも関わらず、明らかにメスから受け入れられにくいのである。この発見は、性染色体の構成が、オスの求愛行動に関する何らかのパフォーマンスを左右し、オスのモテ度(つまり、適応度)に影響することを意味する。この発見を素直に解釈すると、メダカの性染色体上に、オスの求愛パフォーマンスを規定する中枢性の(脳で作用する)遺伝子が存在することになる。そこで本研究では、その遺伝子の同定に挑戦することとした。
まずはXXオスとXYオスの求愛ダンスのスピードを比較解析したところ、XXオスの方がスピードが遅いことが明らかとなった。この結果は、XXオスの方が求愛のダンスが下手であることを示唆しており、このことがXXオスが「モテない」原因となっている可能性が考えられた。次に、XXオスとXYオスの脳でトランスクリプトーム解析を行い、それらのオスの脳の間で発現量に差があり、かつ性染色体上に存在する遺伝子を探索した。その結果、XXオスで発現が低下している性染色体上の遺伝子が34種類見出された。これらの中に、求愛パフォーマンスを規定する遺伝子が存在することが期待される。また、脳内の特定の領域でのエストロゲン受容体の発現がXYオスよりもXXオスで低くなっていることが分かった。もしかしたらXXオスでは、脳でのエストロゲンの作用の低下が、求愛パフォーマンスの低下をもたらしているかもしれないと考えられた。
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