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2022 年度 実施状況報告書

魚類の黄色の発色メカニズムをニシキゴイから探る

研究課題

研究課題/領域番号 22K19217
研究機関北里大学

研究代表者

水澤 寛太  北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (70458743)

研究分担者 天野 春菜  北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (50431341)
研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2024-03-31
キーワードニシキゴイ / 紅白 / 黄白 / 色素 / カロテノイド / プテリジン / LC-MS / 酵素
研究実績の概要

ニシキゴイ(錦鯉)は日本発祥の大型観賞魚であり、海外においても富裕層を中心に人気を集めている。国内で生産される錦鯉の8割以上が海外に輸出されており、政府の輸出重点品目に指定されている。
ニシキゴイの価値は大きさと形、色模様と色の鮮やかさで決まる。赤や黄色の元となる色素であるカロテノイドは、体内で生合成されないため餌から摂取される。このことから、餌にカロテノイドを含む原料を使用することによって、錦鯉の色を鮮やかにする工夫がこれまで行われてきた。しかしながら、ニシキゴイの皮膚に実際に蓄積されるカロテノイド成分や、体内にカロテノイドが吸収、変換、蓄積される過程はまだよくわかっていない。また、非カロテノイド系の色素であるプテリジンの合成経路に関する知見も少ない。
そこで本研究では、赤模様をもつ紅白と黄色模様をもつ黄白という2つの品種に着目し、これらの品種の赤または黄色系の色素成分と、色素分子が代謝あるいは生成される過程を明らかにすることを目的とした。
2022年度は紅白や黄白における赤/黄色系の色素について、鱗におけるカロテノイドの成分とカロテノイド代謝酵素遺伝子転写産物を分析した。その結果、黄白の黄色い色素の主成分がゼアキサンチン(カロテノイドの一種)であることを明らかにした。また、紅白の赤い色素の主成分は吸光スペクトルがアスタキサンチン(カロテノイドの一種)に似ているものの、分子量が異なる別の分子であることを明らかにした。さらにカロテノイド代謝酵素遺伝子について、紅白と黄白の鱗において異なるサブタイプ遺伝子が発現することを明らかにした。また、黄色の色素であるプテリジンについて、大正三色とマゴイの鱗におけるプテリジン合成酵素遺伝子の発現を調べた結果、この酵素の特定のサブタイプの遺伝子が色素合成に関わることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

紅白と黄白の赤または黄色の鱗、ならびに標準的な色揚げ餌に含まれるカロテノイドを調べた結果、黄白の黄色鱗と白色鱗、および紅白の白色鱗には餌に含まれるゼアキサンチンがそのまま蓄積されるが、紅白の赤色鱗ではゼアキサンチンが代謝され、アスタキサンチンに類似した未知の赤色の色素が鱗に蓄積されることが示唆された。紅白と黄白の血漿を抽出したところ、紅白の血漿は赤く、黄白の血漿はオレンジ色であることを発見した。この現象は、消化管においてカロテノイドが吸収される際のカロテノイドの代謝メカニズムが紅白と黄白とで異なることを示唆する。
紅白と黄白の鱗において、赤/黄色系の色素であるカロテノイド分子の中央部分のポリエン部を切断する酵素β-カロテンモノオキシゲナーゼの遺伝子(bco)の皮膚における発現を調べた結果、紅白と黄白においてbcoが色素形成に関与すること、ならびにbcoサブタイプの1つが皮膚におけるゼアキサンチンの代謝に関与することが示唆された。以上の結果から、消化管、肝臓、および皮膚におけるカロテノイド代謝系が皮膚に蓄積するカロテノイド成分の決定に重要であることが示唆された。
大正三色とマゴイの鱗において、プテリジン合成の律速酵素であるGTP-CHの遺伝子(gch)の皮膚における発現を調べた結果、gch1は色素胞以外の細胞において発現すること、ならびにgch2は黄色素胞および黒色素胞に発現することが示唆された。以上の結果から、コイにおいて黄色系の色素であるプテリジンの合成に必要な遺伝子の候補が明らかになった。ニシキゴイの赤/黄色系の色素の主成分はカロテノイドであるが、プテリジンもまた赤/黄色の色合いに寄与する可能性が示唆された。
以上のように、2022年度は当初予定していた目標に加え、新たにカロテノイド代謝系における消化管の重要性を見出すことができたことから、進捗状況を(1)とした。

今後の研究の推進方策

紅白に蓄積される赤色系の色素については、これまでクロマトグラフによる分析や吸光スペクトルからアスタキサンチンであろうと推定されていた。本研究においても、紅白に蓄積される色素の吸光スペクトルはアスタキサンチンのものとほぼ同じあることが判明したが、質量は一致しなかった。一方、紅白においてゼアキサンチンが代謝されて赤色系色素に変化していることはほぼ確実であることから、紅白の赤色系色素の主成分はアスタキサンチンと脂肪酸がエステル結合したものであると推定される。そこで2023年度では、アスタキサンチンを加水分解してLC-MS分析を行う。
また、これまでの研究によって消化管または皮膚におけるカロテノイド代謝系が紅白と黄白で異なること、ならびにカロテノイドとプテリジンの代謝に関わる一部の遺伝子の発現プロファイルが紅白と黄白で異なることが示唆された。そこで2023年度では、トランスクリプトーム解析によって紅白と黄白の皮膚と消化管で発現量の異なる遺伝子の網羅的探索を行うことにより、ニシキゴイにおける赤/黄色系の色素の代謝あるいは生合成に関わる遺伝子の同定を目指す。

次年度使用額が生じた理由

次年度の研究計画にトランスクリプトーム解析を新たに組み込む必要が生じたことから、2022年度に使用する予定だった物品費の一部を2023年度に使用することとした。

備考

研究代表者の所属する研究室のホームページ

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Taisho-Sanshoku koi have hardly faded skin and show attenuated melanophore sensitivity to adrenaline and melanin-concentrating hormone.2022

    • 著者名/発表者名
      Shinohara Y, Kasagi S, Amiya N, Hoshino Y, Ishii R, Hyodo N, Yamaguchi H, Sato S, Amano M, Takahashi A, Mizusawa K
    • 雑誌名

      Frontiers in Endocrinology

      巻: 13 ページ: 3363

    • DOI

      10.3389/fendo.2022.994060

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] マゴイとニシキゴイにおける液性体色調節因子の作用の比較2022

    • 著者名/発表者名
      水澤寛太, 六鹿比斗志, 山川将輝, 大野佑紀, 佐藤 将, 高橋明義
    • 学会等名
      第36回日本下垂体研究会学術集会(2022年8月8-10日, 東海大学山中湖セミナーハウス)
  • [備考] 魚類分子内分泌学研究室HP

    • URL

      https://www.kitasato-u.ac.jp/mb/lab/bunshi/

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公開日: 2023-12-25  

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