研究課題
真核細胞における新規ゲノム編集ツールとして我々が開発したCRISPR-Cas3システムは、数百~数kbの広範な欠失変異を導入するというこれまでにない特徴を有しており、独自性、発展性に富んだ国産ゲノム編集技術として期待されている。しかし、精密にCRISPR-Cas3を制御するシステムがなく、生体内でのゲノム編集機能も未知である。そこで本研究では、低侵襲、高効率、高精度にCRISPR-Cas3を時空間的制御するシステム基盤および動物モデルの構築を目指した。本年度は、時空間制御CRISPR-Cas3プラットフォームの構築研究を実施した。薬剤特異性にゲノム編集活性を制御するため、第三世代Tet-onシステムを用いて、薬剤誘導性CRISPR-Cas3システムを構築した。実際にヒト細胞に導入した結果、ゲノム編集活性のリークがみられない一方、ドキシサイクリン投与時に高効率でKOすることができる実験系の確立に成功した。また本システムを生体内で実施するため、本コンストラクトをRosa領域に導入したラットの作製に成功した。更なる精密な時空間制御を行うため、分担者が開発してきた青色光照射によりタンパク質を結合できる光スイッチシステムと、分割化したCRISPR-Cas3を組み合わせたPA-Cas3システムの開発も目指している。本年度は、光依存的に活性を示す可能性のあるCRISPR-Cas3内でのスプリットポジションについて、結晶構造情報を用いたin silico解析により、約30か所同定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、低侵襲、高効率、高精度にCRISPR-Cas3を時空間的制御するシステム基盤および動物モデルの構築を目指している。薬剤制御性CRISPR-Cas3プラットフォームの構築については、細胞での評価および最適化が完了した。最適化された薬剤制御性CRISPR-Cas3は、セーフハーバー領域であるRosa26領域を対象に、申請者が開発した高効率ノックイン法Combi-CRISPR法を用いて導入を試みた結果、KIラットの作出に成功した。現在、系統化を進めている。光依存的制御システムの構築については、青色光照射によりタンパク質を結合できる光スイッチシステムと、分割化したCRISPR-Cas3を組み合わせて、光依存的に活性を示す可能性のあるスプリット位置を約30か所同定し、すべてのポジションについてのCRISPR-Cas3コンストラクトを作成した。現在、ヒト細胞内で最も良いスプリット位置をスクリーニング中である。以上から、本研究はおおむね計画通り進行している。
次年度は、最適化された光および薬剤制御性CRISPR-Cas3について、セーフハーバー領域であるRosa26領域に導入し、生体内でのゲノム編集光および薬剤制御性法の開発を目指す。薬剤制御性CRISPR-Cas3システムについては、細胞で良い結果を示したTet-on CRISPR-Cas3コンストラクトをRosa領域に導入したKIラットを作出済みである。本個体はホモ系統を樹立後、ドキシサイクリン混合餌を給餌し、全身臓器におけるRNAおよびタンパク発現解析を行い、発現強度およびリークの有無の確認を実施する。その後、発現がみられる複数部位について、AAVまたはLNPを用いてgRNAを投与し、各部位におけるゲノム編集効率の評価およびオフターゲット解析を発現解析、NGS解析、組織化学的解析により行うことで、生体内での最適な活性化条件を決定する。光制御性CRISPR-Cas3システムは、引き続きヒト細胞におけるスクリーニングを実施する。更なるin silico解析により新たな分割候補部位の同定も実施する。良い結果が得られたコンストラクトは、マウスまたはラットにCombi-CRISPR法を用いてRosa領域にKIし、系統化する。以上により、低侵襲、高効率、高精度にCRISPR-Cas3を時空間的制御するシステム基盤および動物モデルの構築を目指す。
本年度は光制御性CRISPR-Cas3の細胞でのスクリーニングに時間を要したため、動物実験に係る消耗品等の使用額が減少した。また、新型コロナウイルスの影響により学会等の多くがオンライン開催だったこともあり、出張費の支出がなかった。次年度は、計画通りに研究を実施し、目標を達成する予定である。
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