CRISPR/Cas9を始めとするゲノム編集技術により、これまでに様々な遺伝子改変動物が作られるようになってはいるものの、相同組換えによる大きなフラグメントのノックインは依然として効率が悪いことが知られている。申請者が所属する滋賀医科大学では、カニクイザルにおけるゲノム編集研究を積極的に推進してい るが、サルを用いる場合、マウスのように単純に試行数を増やすことで効率の問題を回避するということが倫理的に難しく、現状の効率ではノックイン実験は難しい状況である。そこで、本研究では、トランスポゾンあるいは内在性の相同組換え機構を用い、「能動的」にゲノム挿入を行う革新的なノックイン手法を確立することを目的とした。もし効率よくノックインを誘導することが可能になれば、カニクイザルを含めた大動物のみならず、全てを置き換えるポテンシャルを秘めた意欲的な研究である。 本研究では、切断活性を持たない変異型Cas9であるdCas9を、トランスポゾンの転移酵素、あるいは内在性相同組換え関連遺伝子と融合させ、ノックイン効率を向上できないか検討を行った。まず、トランスポゾンの転移酵素とdCas9との融合タンパク質を発現するベクターを構築した。また、内在性の相同組換え機構において働くことが知られている複数の遺伝子のクローニングを行い、dCas9との融合タンパク質を発現するベクターを構築した。それらのベクターを用い、293細胞、マウスES細胞、カニクイザルES細胞において、標的配列を切断できるか検証した。また、その他のHDR経路の関連タンパク質の強制発現や化学的阻害剤を駆使し、内在性の相同組換えに近い状態に誘導するために相乗的に働く因子の探索を行った。
|