研究実績の概要 |
着床とは、胚盤胞が子宮壁に接着して浸潤していく過程であり、正常な妊娠の成立に必須である。ヒト着床機構の解明は、不妊・不育や流産の原因解明などの観点から社会的意義が高いものの、ヒトでは侵襲的な研究が許容されないために、生検サンプルや培養レベルの研究が大部分であった。このため、個体・遺伝子レベルの着床研究は主にマウスをモデル動物として推進され、多くの知見が集積してきた。しかし、ヒトとマウスでは、胚盤胞が子宮壁に着床する方向が異なっていること、子宮内膜に接着後形成される胎盤の解剖学的構造や構成する細胞群が大きく異なっており、結果をヒトへ外挿する上での障壁となっていた。ヒト子宮内膜オルガノイドが着床能(=胚受容能)を有するかどうかはヒト胚を用いて評価しなくてはならず、倫理上困難である。そこで本研究では、ヒトに最も近い実験動物であるカニクイザルから樹立された子宮内膜オルガノイドとカニクイザル胚を用いて、胚受容能を有する新規の試験官内着床系を構築することを目的とした。 先ず、ヒト子宮内膜を模倣するヒト子宮内膜オルガノイド(Turco et al., 2017)を先ず再現することを試みたところ、オルガノイドを作製することに成功し、エストラジオール、プロゲステロンなどのホルモン添加によって内膜が肥厚することを確認した。次に、サル子宮サンプルからも子宮内膜オルガノイドを作成し、ホルモンに反応することを確認した。また、RNA-seq解析によって、胚受容能関連遺伝子の発現変化を確認した。さらに、ブラストイドとの反応により、ブラストイドが子宮内膜オルガノイドに接着することを確認した。これらの知見は、不妊の原因や治療法の新規標的の発見に繋がることが期待される。
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