研究実績の概要 |
本研究では,申請者が開発した再構成型酵母翻訳系(Abe, 2020; Nagai, 2021)を発展させ,非天然アミノ酸(ncAA)を蛋白質に導入するシステムを確立する.全tRNAを試験管内転写tRNA(iVTtRNA)で再構成した翻訳系を利用して遺伝暗号を拡張し,多種類のncAAを蛋白質の複数箇所に導入できる系を目指した. 再構成型酵母翻訳系を基盤として,系内の全tRNAを21種類のiVT tRNAで再構成した.当該翻訳系は,終止コドンの他,計34種類のセンスコドンがアミノ酸を指定しない空コドンとなる.従来の生体外タンパク質合成系を利用したncAA導入では,終止コドンにncAAを割り当てるため,導入するncAAの種類が制限される.更に系から翻訳終結因子eRF1を除く必要があるため翻訳が終結しない.当該翻訳系では,空コドンにncAAを割り当てることにより,複数種類のncAAをeRF1存在下でタンパク質に導入できる筈である. はじめにモデルタンパク質ナノルシフェラーゼに,幾つかの空コドンを介してD型アミノ酸(D-Phe)やClickケミストリーアミノ酸(TCO*LysやPocLys)を導入することに成功した.続いて,抗体医薬Antibody-Drug Conjugate (ADC)の開発を指向し,ラクダ科動物重鎖抗体由来抗原結合ドメインVHHにClickケミストリーアミノ酸を導入することとした.VHHのFR領域にTCO*LysやPoc*Kを導入すれば,Clickケミストリーにより抗ガン剤等の化合物を更に結合できる.BRETを利用したVHHの合成効率及び抗原結合能の高感度な評価システムを確立し,iVTtRNAで再構成した翻訳系により活性のあるVHHの合成に成功した.
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