研究課題/領域番号 |
22K19267
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
伊東 孝祐 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20502397)
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研究分担者 |
西川 周一 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10252222)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / タンパク質合成系 / タンパク質分解系 / ペプチジルtRNA加水分解酵素 / 酵素活性測定 |
研究実績の概要 |
細胞内での異常タンパク質の蓄積は、アルツハイマー病やパーキンソン病など、様々な神経変性疾患を引き起こす。よって、これら疾患の治療法確立のためにも、異常タンパク質の産生と分解の機序解明は重要な研究課題である。この機序解明の一環として、本研究ではタンパク質合成系と分解系の間に直接的協調機構が存在するのかを調査する。 本年度は、タンパク質合成系の因子であるペプチジルtRNA加水分解酵素の活性が、タンパク質分解系の因子であるタンパク質Xによってどのような影響を受けるか、in vitroで解析するために、ペプチジルtRNA加水分解酵素の基質であるアセチルアミノアシルtRNAの作製を行った。なお、アセチルアミノアシルtRNAは、アミノアシルtRNAのアミノ酸アミノ基がアセチル化されてアミド結合が形成されたものであり、ペプチジルtRNAと同様にペプチジルtRNA加水分解酵素の基質となることが明らかになっている。アセチルアミノアシルtRNAの作製は、tRNAをin vitro transcription systemで合成し、次いでアミノアシルtRNA合成酵素でtRNAに放射性アミノ酸を付加した後、無水酢酸によりアミノアシルtRNAをアセチル化する方法で行った。その結果、活性測定をするに十分な基質を得ることができた。また、実際に合成した基質を使用して活性測定を行った結果、酵素学的パラメーターであるKcatやKmを決定することもできた。今後はこの活性測定系を利用して、タンパク質Xの存在により、どのようにペプチジルtRNA加水分解酵素の活性が変化するかを詳細に調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質合成系と分解系の直接的協調機構を調査する対象として、我々は、タンパク質合成系の因子であるペプチジルtRNA加水分解酵素と、タンパク質分解系の因子であるタンパク質Xの相互作用に着目している。そして、この相互作用の意義の一つとして、我々は、タンパク質Xの存在によりペプチジルtRNA加水分解酵素の活性が制御されていることを考えている。この仮説を検証するためには、ペプチジルtRNA加水分解酵素やタンパク質Xの精製標品、およびペプチジルtRNA加水分解酵素の基質としてアセチルアミノアシルtRNAが必要である。我々はこれまで、ペプチジルtRNA加水分解酵素やタンパク質Xを大腸菌で発現させて精製する系を作製してきた。また我々は、研究実績の概要で述べた通り、アセチルアミノアシルtRNAの作製も終了させ、さらには酵素学的パラメーターを算出するための酵素活性測定系も確立している。なお、アセチルアミノアシルtRNAの作製やペプチジルtRNA加水分解酵素の活性測定には予想より時間を費やしたが、これらは独特の技術を必要とする要素が多く、世界的にもこれらの実験を現在行っているラボは、我々の知る限り他に存在しない。そのような実験系を作製することができたため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作製した活性測定系を利用して、タンパク質Xの存在により、ペプチジルtRNA加水分解酵素の活性がどのように変化するかをin vitroにおいて詳細に調べる予定である。それと同時に、酵母を用いたin vivo実験も行い、ペプチジルtRNA加水分解酵素とタンパク質Xの相互作用の生理的意義を追究する。加えて、ペプチジルtRNA加水分解酵素とタンパク質Xの相互作用様式を詳細に明らかにするため、X線結晶構造解析を行う。また、タンパク質Xと他のタンパク質分解系の因子の親和性が、タンパク質合成系の因子の存在でどのように変化するのかについても調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アセチルアミノアシルtRNAの作製やペプチジルtRNA加水分解酵素の活性測定に予想より時間を費やしたため、次に予定していた実験が一部遂行できないところがあり、当初の予定よりも使用額が少なかった。しかし、難関はクリアーしたため今後研究は加速すると考える。残額は来年度以降の酵素活性測定、X線結晶構造解析、および酵母を使用した実験に充てる予定である。
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