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2022 年度 実施状況報告書

太古の地球における酸素の起源

研究課題

研究課題/領域番号 22K19270
研究機関名古屋大学

研究代表者

野口 巧  名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60241246)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2025-03-31
キーワード光合成 / 光化学系Ⅱ / 酸素発生 / 水分解 / アミノ酸変換 / 進化 / マンガンクラスター
研究実績の概要

我々はシアノバクテリアの光化学系Ⅱタンパク質において、酸素発生の触媒部位であるマンガンクラスターの配位子(アスパラギン酸D1-D170)のヒスチジン変異体(D1-D170H)を作製すると、アミノ酸変換を起こして本来のアスパラギン酸に戻り、酸素発生が回復する現象を既に見出していた。このアミノ酸変換が、DNAあるいはRNAレベルではなく、翻訳後にタンパク質レベルで起こることを、13C同位体置換ヒスチジンを導入した光化学系Ⅱ試料の赤外分光および液体クロマトグラフ質量分析に解析によって証明した。また、他のカルボキシレート配位子であるD1-E189およびD1-D342を、アミド基を持つアミノ酸(E189Q, D432N)に変換した場合でも翻訳後アミノ酸変換が起こって本来のアミノ酸に戻ること、そして、炭素鎖の短いアラニンへの変異体ではアミノ酸変換が起こらないことを明らかにした。これらのことから、このアミノ酸変換は光化学系Ⅱの酸素発生系に一般的な現象であり、十分な炭化水素鎖を持つアミノ酸がアスパラギン酸またはグルタミン酸に変換されて酸素発生系を形成されることが示された。これらのアミノ酸変換は、光を用いたマンガンクラスターの構築過程(光活性化)において生成する活性酸素による酸化、あるいはアミド基の加水分解によって行われると推測した。
こうした光化学系Ⅱの翻訳後アミノ酸変換現象の発見に基づき、30億年以上前の太古の地球において、配位子系が未完成の祖先型光化学系Ⅱで翻訳後アミノ酸変換が起こり、カルボキシル配位子が生成して始原的なマンガンクラスターが形成され、最初の酸素発生が行われた、との独自の仮説を初めて提唱した(Shimada et al., Nature Commum. 2022)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

我々が既に報告していた光化学系Ⅱにおけるアミノ酸変換が、DNAレベルではなく、タンパク質レベルで起こる現象であることを、同位体置換アミノ酸を用いて確実に証明することができた。また、いくつかの配位子位置での変異体により、この現象はマンガンクラスターの配位子系で一般的に起こることを示した。そして、この翻訳後アミノ酸が太古の地球における酸素発生の起源であるとの全く新規な仮説を学術雑誌(Nature Commun.)、国際会議、総説、および新聞(科学新聞)上において、国内外に公表することができた。

今後の研究の推進方策

これまでに証明できたアミノ酸変換は、イミダゾール基を持つヒスチジンからアスパラギン酸へ、また、アミド基をもつアスパラギンおよびグルタミンからアスパラギン酸およびグルタミン酸への変換のみであり、他のアミノ酸が変換される実験的証拠は未だ得られていない。そこで、他のアミノ酸、特に脂肪族アミノ酸や芳香族アミノ酸がカルボキシル基を持つアスパラギン酸またはグルタミン酸に変換されるかどうかを調べる。また、これまでに調べられた3つの配位子(D1-D170, D1-E189, D1-D342)以外のカルボキシレート配位子(D1-E333、CP43-E354)の変異体でもアミノ酸変換が起こるかどうかを調べる。それらが可能であれば、本研究で見出した光化学系Ⅱの翻訳後アミノ酸変換が極めて一般的な現象であり、太古の地球における酸素発生の起源となり得ることを強く支持することになる。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Triplet Delocalization over the Reaction Center Chlorophylls in Photosystem II2023

    • 著者名/発表者名
      Hayase Taichi、Shimada Yuichiro、Mitomi Tatsuya、Nagao Ryo、Noguchi Takumi
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 127 ページ: 1758~1770

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.3c00139

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Post-translational amino acid conversion in photosystem II as a possible origin of photosynthetic oxygen evolution2022

    • 著者名/発表者名
      Shimada Yuichiro、Suzuki Takehiro、Matsubara Takumi、Kitajima-Ihara Tomomi、Nagao Ryo、Dohmae Naoshi、Noguchi Takumi
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 13 ページ: 4211

    • DOI

      10.1038/s41467-022-31931-y

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] D139N mutation of PsbP enhances the oxygen-evolving activity of photosystem II through stabilized binding of a chloride ion2022

    • 著者名/発表者名
      Imaizumi Ko、Nishimura Taishi、Nagao Ryo、Saito Keisuke、Nakano Takeshi、Ishikita Hiroshi、Noguchi Takumi、Ifuku Kentaro
    • 雑誌名

      PNAS Nexus

      巻: 1 ページ: pgac136

    • DOI

      10.1093/pnasnexus/pgac136

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Role of D1-Glu65 in Proton Transfer during Photosynthetic Water Oxidation in Photosystem II2022

    • 著者名/発表者名
      Shimada Yuichiro、Sugiyama Ayane、Nagao Ryo、Noguchi Takumi
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 126 ページ: 8202~8213

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.2c05869

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 光化学系Ⅱにおける翻訳後アミノ酸変換と光合成酸素発生の起源2022

    • 著者名/発表者名
      野口 巧
    • 雑誌名

      光合成研究

      巻: 32 ページ: 151-161

    • 査読あり
  • [学会発表] 光化学系IIにおけるチロシンDの酸化還元電位の評価2023

    • 著者名/発表者名
      加藤祐樹、岩銅壮平、政本彩帆、三野広幸、野口巧
    • 学会等名
      日本植物生理学会年会
  • [学会発表] 分光電気化学法による光化学系IIチロシンDの酸化還元電位の評価2023

    • 著者名/発表者名
      加藤祐樹、岩銅壮平、政本彩帆、三野広幸、野口巧
    • 学会等名
      生物物理中部支部講演会
  • [学会発表] Post-translational amino acid conversion in the oxygen-evolving complex and its implication2022

    • 著者名/発表者名
      Takumi Noguchi, Yuichiro Shimada, Takehiro Suzuki, Takumi Matsubara, Tomomi Kitajima-Ihara, Ryo Nagao, and Naoshi Dohmae
    • 学会等名
      Mechanisms of Water Oxidation, Satellite Meeting to 18th International Congress on Photosynthesis Research
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 光化学系IIにおける構造的摂動が第一キノン電子受容体QAの酸化還元電位に及ぼす影響:FTIR分光電気化学法による解析2022

    • 著者名/発表者名
      加藤祐樹、野口巧
    • 学会等名
      電気化学秋季大会
  • [学会発表] 光化学系Ⅱにおける水分解マンガンクラスターの光構築機構の時間分解赤外分光解析2022

    • 著者名/発表者名
      渡邉隼弥、嶋田友一郎、野口巧
    • 学会等名
      日本生物物理学会年会
  • [学会発表] 光化学系IIにおけるストロマおよびルーメン側における摂動が第一キノン電子受容体QAの酸化還元電位に及ぼす影響2022

    • 著者名/発表者名
      加藤祐樹、野口巧
    • 学会等名
      日本生物物理学会年会
  • [備考] Nagoya phys G-lab

    • URL

      https://www.bio.phys.nagoya-u.ac.jp/index.html

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公開日: 2023-12-25  

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