個体の表現型は、発生、分化により成立し、老化や死に至る崩壊までダイナミックに変化する。トランスクリプトーム解析は、変化する表現型解析において最も状態を反映する情報としてこれまで汎用されてきた。一方で、現在のトランスクリプトーム解析は、細胞を破壊しRNAを抽出する必要があるため、同一の細胞の変化を追跡することはできない。すなわち、トランスクリプトームに基づく表現型の変化は集団を用いた統計的な推測であり、実追跡に基づいた解析はほとんどなされていない。そこで、本研究では、細胞が分泌するエクソソームに含まれる微量なRNAと内在性のRNAが相関する独自の先行知見に基づき、生細胞の非破壊的RNAseq法の開発を進めた。培養細胞C2C12マウス筋芽細胞は5日間の分化刺激条件の下、形態的およびトランスクリプトーム変化を経て分化する。既に蓄積している本細胞を用いた多くのトランスクリプトーム解析データを活かして、ライブセルRNAseq法の樹立を進めた。細胞の分化刺激後、培養上清からエクソソーム分画 を回収し、分画ごとのRNAseqを行った。RNAseqは全RNAを解析するtotal RNAseq法で行い、内在性のRNAを用いたRNAseqデータと比較し、相関性を検証した。またC2C12細胞以外にマウスES細胞、K562細胞を用いて多角的な検証を行った。 更に、単一細胞レベルでのライブセルRNAseq法の開発を進めた。C2C12マウス筋芽細胞をモデルとして開発を行い、エクソソームを個別に解析する技術開発の原理実証に成功した。細胞一つ当たり1000個のエクソソームが分泌されるため、10xとした単一細胞トランスクリプトーム解析プラットフォームでは単一エクソソーム解析は不可能である。そこで、空間オミクス技術の着想より網羅的な解析法を確立した。プロジェクトを順調に終え、さまざまな検体による応用をすすめている。
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