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2022 年度 実施状況報告書

老化にともなう染色体不安定性への酸化ストレスの影響の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K19283
研究機関東北大学

研究代表者

田中 耕三  東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2024-03-31
キーワード老化 / 細胞 / 染色体
研究実績の概要

本研究では、老化にともなう染色体不安定性に対する酸化ストレスの影響を明らかにすることを目的とする。我々は、老齢マウスの皮膚線維芽細胞が、微小核やlagging chromosomeの増加など染色体不安定性の特徴を示すことを見出した。老齢マウスの細胞では活性酸素種(ROS)が増加しており、抗酸化剤により微小核の出現頻度が減少したことから、酸化ストレスの増加が染色体不安定性に関与していることが示唆された。そこで本研究では、この酸化ストレスの増加の原因、およびこれによる染色体不安定性の発生機構を明らかにすることを目的とする。2022年度は以下のような成果が得られた。
1. 老化にともなう酸化ストレスの増加の原因の解明
若齢マウスと老齢マウスより単離した皮膚線維芽細胞のミトコンドリア機能について、ミトコンドリアの膜電位の蛍光プローブであるJC-10により検討したところ、老齢マウス由来の細胞ではミトコンドリアの膜電位が低下しており、ミトコンドリア機能の低下がROSの増加を引き起こしている可能性が示唆された。
2. 酸化ストレスによる染色体不安定性の発生機構の解析
老齢マウスより単離した細胞では、複製ストレスの指標である間期核における53BP1 nuclear bodyや、染色体分配時のultra fine bridgeが認められたことから、複製ストレスが生じている可能性が示唆された。そこで、酸化ストレスと複製ストレスの関連を調べるために、抗酸化剤であるNACを加えたところ、老齢マウスより単離した細胞において53BP1 nuclear bogyとultra fine bridgeを有する細胞が減少することがわかった。このことより、老齢マウスより単離した細胞では、酸化ストレスにより複製ストレスが引き起こされている可能性が示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2022年度には、研究計画書に記載した研究項目のうち、1. 老化にともなう酸化ストレスの増加の原因の解明および、2. 酸化ストレスによる染色体不安定性の発生機構の解明について、それぞれ順調な進捗が見られた。1. については、老齢マウスより単離した線維芽細胞においては、ミトコンドリアの機能低下が起こっており、これが酸化ストレスの原因となっていることが示唆された。加齢にともなってミトコンドリア機能が低下することは以前より知られており、本研究の成果はこれを支持するものと考えられた。一方2.については、老齢マウスより単離した線維芽細胞においては、複製ストレスが起こっており、これが酸化ストレスに起因することが示唆された。このことは、酸化ストレスが複製ストレスを介して染色体不安定性を引き起こしている可能性を示しており、本研究の展開に重要な所見であると考えられた。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

2022年度の成果をふまえ、2023年度は以下のような研究を行う。
1. 複製ストレスと染色体不安定性の関連の解明 老齢マウスより単離した線維芽細胞において、複製ストレスの軽減が染色体不安定性の改善につながるかを調べる。この目的のために細胞にnucleosideを加え、53BP1 nuclear bodyの頻度や微小核の頻度を検討する。また複製ストレスがどのように染色体不安定性を引き起こすかについて、染色体不安定性の原因として知られている紡錘体チェックポイントの異常や微小管の過度の安定化などが見られるかどうかを検討する。
2. 染色体不安定性による異数性の発生の検討 老齢マウスより単離した線維芽細胞において、染色体不安定性が異数性(染色体数の異常)を引き起こすかどうかをchromosome spreadを行なって染色体数を数えることによって検討する。またchromosome breakなどの染色体の構造の異常が見られるかについても明らかにする。
3. シングルセルRNA解析による加齢にともなう線維芽細胞集団の遺伝子発現変化の解析 若齢マウスと老齢マウスより単離した線維芽細胞を用いて、シングルセルRNA解析を行い、遺伝子発現の差異によってそれぞれに含まれる細胞集団を解析し、加齢にともなう線維芽細胞集団の変化を検討する。

次年度使用額が生じた理由

2022年度については、消耗品の使用が少なく、在庫を使用することで多くの実験を遂行できたため、使用額が予定より少なくなった。一方2023年度には、複製ストレスと染色体不安定性の関連や染色体不安定性による異数性の発生を調べるために、老齢マウスの購入、免疫染色のための抗体の購入、各種消耗品の購入費用などに多額の出費が見込まれる。また若齢マウスと老齢マウスより単離した線維芽細胞のシングルセルRNA解析のために、多額の費用を要する。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2022 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] High levels of chromosomal instability facilitate the tumor growth and sphere formation2022

    • 著者名/発表者名
      Iemura Kenji、Anzawa Hayato、Funayama Ryo、Iwakami Runa、Nakayama Keiko、Kinoshita Kengo、Tanaka Kozo
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 113 ページ: 2727~2737

    • DOI

      10.1111/cas.15457

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 染色体分配における染色体オシレーションの役割2022

    • 著者名/発表者名
      家村 顕自、田中 耕三
    • 雑誌名

      生化学

      巻: 94 ページ: 433~437

    • DOI

      10.14952/SEIKAGAKU.2022.940433

  • [学会発表] 加齢に伴って蓄積する酸化ストレスの染色体不安定性への影響の解明2022

    • 著者名/発表者名
      陳冠, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第74回日本細胞生物学会大会
  • [学会発表] がん細胞での染色体不安定性の原因としての染色体オシレーションの減弱2022

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      JSA open symposium 2022
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] がんにおける染色体不安定性の原因とその影響2022

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      第327回がんセンターセミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 細胞外液性因子を介した染色体不安定性の誘導機構2022

    • 著者名/発表者名
      家村顕自、田中耕三
    • 学会等名
      第1回 細胞分裂研究会
  • [学会発表] Survival strategies of cancer cells against chromosomal instability2022

    • 著者名/発表者名
      家村顕自、田中耕三
    • 学会等名
      第81回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] Chromosomal instability induced by chromosome dynamics in cancer cells2022

    • 著者名/発表者名
      田中耕三
    • 学会等名
      The 17th International Symposium of the Institute Network for Biomedical Sciences
    • 国際学会
  • [学会発表] がん細胞液性因子は染色体不安定性を惹起する2022

    • 著者名/発表者名
      家村顕自、田中耕三
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 加齢に伴って蓄積する酸化ストレスがの染色体不安定性を誘発する2022

    • 著者名/発表者名
      陳冠, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] KIF18Aの紡錘体形成と染色体オシレーションに関する機能の関連2022

    • 著者名/発表者名
      佐藤杏美, 家村顕自, 田中耕三
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 異数性がん細胞液性因子による染色体不安定性の誘導機構2022

    • 著者名/発表者名
      家村顕自、田中耕三
    • 学会等名
      第40回染色体ワークショップ第21回核ダイナミクス研究会
  • [備考] 東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野

    • URL

      http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/molonc/index.html

  • [備考] 東北大学加齢医学研究所

    • URL

      http://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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