研究課題/領域番号 |
22K19284
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90334797)
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研究分担者 |
菅井 祥加 東京工業大学, 国際先駆研究機構, 特任助教 (10905566)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 液滴 / 凝集体 / アミロイド / 添加剤 / 共溶質 |
研究実績の概要 |
本研究では、アミロイド線維による固い凝集体の形成の途中に液滴を形成するという仮説を実証することを目的としている。タンパク質分子間の相互作用を可視化し、同時に制御するために、申請者がこれまで開発してきた凝集抑制剤を用いる。 初年度の目標として、酵母プリオンSup35を対象に、このタンパク質が液滴や凝集体などの集合状態を形成する条件を明らかにし、それぞれの形成に共溶質が影響をおよぼすかどうかを定量化できるかどうかを実験した。 Sup35は線維の形成の鍵となるNMドメインに、精製しやすいための7残基のヒスチジンからなるヒスチジンタグを結合させたSup35NM-7Hisを対象にした。このタンパク質を精製し、液滴や凝集体を形成をさせる条件をさまざまな添加剤の共存化で探索した。その結果、特定のタイプの中性クラウダーを共存させることでSup35NM-7Hisが液滴を形成させる条件を明らかにすることができた。液滴を形成させる条件の中でも、中性クラウダーの構成単位となる化合物では液滴を形成しないことも確認できた。以上の結果、溶液添加剤を組み合わせることで、液滴を形成させる条件や、凝集体を形成させる条件を明らかにすることができた。 予想していなかった欠陥として、Sup35NM-7Hisが液滴を形成する条件で塩化ナトリウムを添加すると時間とともにゲルのような状態に成熟するような挙動も観察することができた。一方で、電荷を持つポリマーの効果を調べると、Sup35NM-7Hisと会合することで液滴ではなく凝集体になる傾向が高かった。以上の結果、時間的な経緯として先に液滴を形成し、その後、凝集体を形成していくような成熟させる条件も明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究によって、必要となるタンパク質の調整が完了し、そのタンパク質による状態変化を生じさせる実験条件、および顕微鏡による観察や分光光度計による形成の時間変化を定量する条件が明らかになった。これは当初の予定どおりの進捗である。また、そこに共溶質を共存させたときの状態変化についても、分散した状態および液滴を形成した条件への変化、さらには液滴から凝集体に見える状態への変化が観察できており、順調な進捗状況であると考えられる。 中性クラウダーによる性質の調査において、単量体単位と複合体で液滴の形成が異なるのは興味深い発見であった。すなわち単に溶液中に含まれる成分だけではなく、形状も液滴の形成に何らかの役割を担うことがわかった。さらに、アミロイドへの成熟させる条件については初年度においては見出すことができなかった。これは当初の予想どおりであり、アミロイドの形成には時間が必要になるためだろう。また、液滴から凝集体へと成熟する条件が見つかったのも、よい進展であると考えられる。これまで申請者は、オボアルブミンとリゾチームなどのモデルタンパク質系において、液滴から凝集体への成熟させる条件を明らかにしてきたが、プリオンの現象を引き起こすタンパク質でもこの現象が再現できたのは価値があると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度が最終年度になる。Sup35NM-7Hisの液滴の形成および、液滴から凝集体への成熟のプロセスを再現することができた。最終年度として、初期状態を変えたときのアミロイド形成を調べていく。アミロイド形成のためには、液滴を形成させた方がよいのか、分散させた時とはどの程度の違いがあるのかを明らかにすることは、最近、神経変性疾患に関するタンパク質の挙動として発見が相次いでいる液滴からアミロイドへの形成の制御に関して重要な知見を与えることができるだろう。液滴からアミロイドへの成熟を再現するために、初年度の研究成果を踏まえ、高分子および電荷の性質を調査すると良いと想定している。さらには、最近の報告でアルファシヌクレインは、液滴からゲル化するような条件ではアミロイドが形成しないという成果があるため、おそらくSup35NM-7Hisでも同様の仮説に基づいた研究が価値があると考えられる。 また、添加剤として用いる共溶質として、最近わかってきたポリアニオンの性質を利用したり、またはタンパク質系として申請者がこれまで用いてきたオボアルブミン・リゾチーム系に応用することで、申請段階では想定していなかった食品や医薬品への応用の可能性も探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する消耗品を直前に購入するため、次年度に使用するよう計画した。
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