研究課題/領域番号 |
22K19286
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船津 高志 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00190124)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 生物物理学 / ナノバイオ / 温度生物学 |
研究実績の概要 |
細胞が機能を発揮する上で、温度は重要な物理量である。我々は、温度感受性蛍光ポリマーを合成し、1細胞や細胞内温度を計測することを可能にした(Okabe et al., Nat. Commun. 2012)。その結果、G1期では細胞の核が細胞質より0.7℃温度が高いこと、薬剤刺激によりミトコンドリアで熱発生が起こることを明らかにした。これにより、細胞内の温度分布が世界中の研究者に意識されるようになった。しかし、現状では、温度計測の空間分解能は光の回折限界の~500 nmに留まっている。この限界を打開するため、本研究では、細胞内小器官に局在する生体分子の温度を、ラマン散乱光(アンチストークス光とストークス光)を用いて計測する技術を開発する。これにより、生体分子が活動しているナノスペースの温度を決定することを可能とする。2022年度は、まず、低周波顕微ラマン分光装置の組み立てと装置の校正を行った。次に、細胞内に導入可能であり、かつ生体分子と結合させることが可能な低周波ラマン散乱プローブの探索を行った。さらに、表面増強ラマン散乱を利用して単一分子のラマン散乱スペクトルを得る方策を検討した。その結果、蛍光色素したオリゴDNA、または蛍光色素とアミノアセトニトリルを結合させたオリゴDNAを低周波ラマン散乱プローブとして用い、これらを金ナノ粒子殻のナノメートルの空隙に閉じ込めることにより信号強度を増強することにした。本年度は、この調製法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラマン散乱を利用した温度プローブを開発する本研究課題を遂行する上で、以下の2つが重要な問題点である。 (1)低周波数ラマン散乱プローブとして何を選択するか? (2)微弱なラマン散乱信号をどのようにして増幅するか? 種々な検討を行い、蛍光色素とアミノアセトニトリルを結合させたオリゴDNAをプローブとして用い、これを金ナノ粒子殻のナノメートルの空隙に閉じ込めるという方針を決定した。そして、本年度は、この調製法を確立することができた。この温度プローブのラマン散乱スペクトルを測定する準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
調整したプローブのラマン散乱スペクトルを様々な温度で測定し、ラマン分光装置の校正(主としてカメラの量子効率や光学部品の透過率の波長依存性の補正)を行う。次に、アンチストークス光とストークス光の強度比から温度を測定できることを立証する。さらに、低周波ラマン散乱プローブにPolyethylene glycolを介してHalo ligandを結合させる。これを培養細胞(HeLa細胞、COS7細胞など)の培地に加えたり、マイクロインジェクションにより細胞内に導入する。一方、ミトコンドリアなどの特定の細胞内小器官に特異的に発現しているタンパク質にHalo-tagを結合させた標的タンパク質を培養細胞に強制発現させる。これにより特定の細胞内小器官に低周波ラマン散乱プローブを選択的に結合させ、その温度を測定する。複数種のプローブを用いることにより、複数種の生体分子の温度を同時計測する。
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