研究実績の概要 |
細胞が機能を発揮する上で、温度は重要な物理量である。我々は、温度感受性蛍光ポリマーを合成し、1細胞や細胞内温度を計測することを可能にした(Okabe et al., Nat. Commun. 2012)。その結果、G1期では細胞の核が細胞質より0.7℃温度が高いこと、薬剤刺激によりミトコンドリアで熱発生が起こることを明らかにした。これにより、細胞内の温度分布が世界中の研究者に意識されるようになった。しかし、現状では、温度計測の空間分解能は光の回折限界の~500 nmに留まっている。この限界を打開するため、本研究では、細胞内小器官に局在する生体分子の温度を、ラマン散乱光(アンチストークス光とストークス光)を用いて計測する技術を開発する。これにより、生体分子が活動しているナノスペースの温度を決定することを可能とする。2022年度は、まず、低周波顕微ラマン分光装置の組み立てと装置の校正を行った。次に、細胞内に導入可能であり、かつ生体分子と結合させることが可能な低周波ラマン散乱プローブの探索を行った。さらに、表面増強ラマン散乱を利用して単一分子のラマン散乱スペクトルを得る方策を検討した。その結果、蛍光色素したオリゴDNA、または蛍光色素とアミノアセトニトリルを結合させたオリゴDNAを低周波ラマン散乱プローブとして用い、これらを金ナノ粒子殻のナノメートルの空隙に閉じ込めることに成功した。2023年度は、これらの試料のラマン散乱を測定し、金ナノ粒子からアンチストークス光の信号を得られることを確認した。さらに、金ナノ粒子殻のナノメートルの空隙に閉じ込めるオリゴDNAの種類を様々に変えてラマン信号の起源を考察した。
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