これまでに申請者は自閉症患者で最も変異率の高い原因遺伝子の1つとして注目を集めているCHD8遺伝子をヘテロ欠損したマウスが自閉症を発症することを報告したが、このマウスの脳内遺伝子発現量が遺伝子長に逆相関していることを発見した。長鎖遺伝子の発現低下は転写伸長反応が障害されたときに見られる表現型であるため、転写伸長の障害が自閉症の発症に関わると推測されるが、これまでCHD8が転写伸長に関わる報告はなかった。そこで本研究ではCHD8と転写伸長の関連を明らかにし、自閉症の新たな発症メカニズムとして転写伸長の障害が関与する可能性を検証した。
CHD8と転写伸長の関連を検証するため、CHD8を欠損させたマウス神経幹細胞を用いたmNET-seq解析をおこなったが、想定外に神経幹細胞では転写状態がその他の培養細胞と大きく異なっており、解析に供する十分なデータを取得することができなかった。これはおそらく神経幹細胞のスプライシングが通常の細胞と異なっているためと推測されるが、本研究の目的とは外れるが興味深い発見だった。改めて転写伸長を検証するため解析原理の異なる転写伸長解析法であるPOINTseq法を実施したところ、CHD8を欠損した細胞で転写伸長が障害されていることを示す結果が得られた。また、質量分析計を用いてCHD8の結合タンパク質を同定したところ、転写伸長関連タンパク質がCHD8に結合していることが明らかになった。これらの結果から、CHD8は転写伸長複合体の構成因子として働いており、CHD8の機能不全によって転写伸長が障害されることが示唆された。
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