電子線と磁性をもたない物質の相互作用は、電子により遮蔽された原子核の静電ポテンシャルである。そのため、電子線回折による構造解析においては、電子の分布考慮し、電子密度ではなく、静電ポテンシャルをつかって構造計算することが適切である。本研究では、R因子を評価関数として、電子密度と静電ポテンシャルによる構造解析を行い、比較を行った。電子密度及び静電ポテンシャルともに、量子化学計算を用いて、対応する原子核の配置を変更しながら、計算を行った。その結果、静電ポテンシャルによる構造解析のほうが、R因子が低下することが分かった。さらに、芳香環についた水酸基、及びメチル基における水素の配置について、R因子の極小値をもつ構造があることがわかった。また、このR因子の極小値を用いた構造は、電子密度を用いた配置と静電ポテンシャルを用いた配置では異なっており、ここでも静電ポテンシャルを用いた構造のほうがR因子が小さく、芳香環についた水酸基は、芳香環のもつ四重双極子からみて、適切な配置であった。以上のことから、量子化学計算を行った静電ポテンシャルを用いることにより、精密な構造決定が可能であることが示された。ただし、温度因子に関しては、分子全体の揺らぎに関するものしか考慮できていないため、R因子の低下が不十分である。今後、原子毎の原子核位置の動きに対応した、静電ポテンシャルの揺らぎを計算する手法を構築することを通して、より精密な構造決定につなげることに挑戦する。
|